いわゆる新型コロナ・ウイルス感染症では、いかに素早く対症療法を行うかが鍵を握っているのために――
例えば、新型コロナ・ウイルスの検出に時間や手間をかけることは、
――医学の美しさ
に反する、ということを――
きのうの『道草日記』で述べました。
こう述べると、
――早期発見・早期治療こそが“医学の美しさ”だ。
と反論する人がいます。
ここでいう「早期発見」とは、どのような病気があるかを正確かつ迅速に判断するということであり、「早期治療」とは、早期に発見された病気に特異的な治療――あるいは、特効的な治療――を迅速に実行するということです。
たしかに――
現実の医療現場では、
――早期発見・早期治療こそが“医学の美しさ”だ。
といえる局面が、いくらもあります。
その典型は、すでに特効薬が開発されている感染症であり、また、ある種の悪性腫瘍(がん)も多分そうです。
が――
新型コロナ・ウイルス感染症は、そうではありません。
――特効薬が開発されていないから――
というのが理由の1つであることは――
すでに述べました。
もう1つ理由があります。
それは、
――少なくとも感染後しばらくは、「新型コロナ・ウイルス感染症である」と正確に診断を下すことが不可能だから――
です。
新型コロナ・ウイルス感染症は――
感染後しばらくは普通の風邪と同様の症状・徴候を呈することが報告されています。
感染後しばらくの時期に、例えば、いわゆるPCR(polymerase chain reaction)検査で新型コロナ・ウイルスの検出を試みても、検出に成功するのは感染者の30~70%くらいと見積もられています――裏を返すと、70~30%の感染者は見逃す、ということです。
見逃された感染者は、人情として、普段の生活を続けようとしますから、その結果、新型コロナ・ウイルスの蔓延に無意識に寄与してしまうと考えられます。
よって、PCR検査は感染後しばらくの間は行わない、という話になります。
では――
いつPCR検査を行うのか――
それは――
感染後しばらくが経って、自然治癒がかなわず、新型コロナ・ウイルスの増殖が進んでしまい、感染を見逃す懸念がなくなったと考えられるような時期で、かつ、特効的な治療が可能と考えられる他の感染症ではないことを確認する必要が生じた場合です。
つまり――
新型コロナ・ウイルス感染症でPCR検査が行われるのは、不幸にして自然治癒がかなわなかった場合なのです。
PCR検査を希望の光のように捉える発想は、人情としては、よくわかりますが――
新型コロナ・ウイルス感染症の厳しい現実とは相容れません。
……
……
――医学の美しさ
とは何か――
新型コロナ・ウイルス感染症の局面についていえば――
それは、
――必要なことだけを素早く行い、余計なことには目もくれない。
という方針である、ということを――
きのうの『道草日記』で述べました。
もう少し大局的にいうと、
――医学の美しさ
とは、
――医療の不確実性を、できるだけ単純な手続きで最小に抑え込むこと
です。
このために――
“医学の美しさ”は、個々の局面において、見かけを変えます。
医療の不確実性が、個々の局面において――例えば、どういう病気を対象としているかによって――大きく変わってくるからです。
新型コロナ・ウイルス感染症は、発見されて間もない感染症です。
その診断や治療の方法は十分には確立されていません――つまり、医療の不確実性が格段に高い――
その高い不確実性に見合った“美しさ”が想定されるのです。