――講義や講演の上手・下手
は、
――“逸脱的思考”の活用の有無
で決まる――
ということを――
きのうの『道草日記』で述べました。
実は――
“逸脱的思考”の活用が最も威力を発揮するのは、
――挨拶のスピーチ
です。
例えば――
職場での就任、離任の挨拶――
……
……
極端な例を挙げます。
ある学校の先生が転任か何かで他の学校に移ることになり――
全校集会で挨拶をしました。
その先生は――
壇上に登ると、落ち着いた仕草でマイクの高さを調整すると――
ほぼ開口一番に、次のように述べました。
――受け持ちの生徒に「私のことで印象に残ってるのは何?」と訊いたら「授業中の雑談」といわれたので、きょうは雑談をします。皆さん、ちょっと、このマイクをみてください。実は、これ……。
その後――
その先生は、お別れの挨拶らしき常套句は、一切、口にせず――
壇上のマイクのことを何か話してスピーチを終えました。
その先生のスピーチは――
まさに“逸脱的思考”の流れに沿っていました。
少なくとも、“懐疑的思考”の流れや“批判的思考”の流れに沿ってはいません。
“懐疑的思考”の流れに沿えば――
「雑談をするにしても、なぜ、よりによってマイクの話をするの?」など、いわゆる“突っ込みどころ”が満載ですし――
“批判的思考”の流れに沿えば――
離任の挨拶で話す内容を生徒への質問の返答で決めることに、どれほどの共感を得られるかが、大いに怪しいところです。
が――
このスピーチを聴いていた人たちの多くは――
壇上のマイクの蘊蓄(うんちく)については、何一つ記憶に留められませんでしたが――
その先生の語り口や人柄のことについては、長らく心に残ったのです。
離任の挨拶としては――
これ以上ないくらいの出来であったといえます。
……
……
――挨拶のスピーチ
を苦手にしている人は少なくありません。
そういう人は――
おそらく、
――懐疑的思考
や、
――批判的思考
に比べ、
――逸脱的思考
が苦手なのです。
――“逸脱的思考”の活用
を熟知している人にとって、
――挨拶のスピーチ
は簡単です。
きっと失敗をして恥をかくことも十分にありえますが――
少なくとも、
――さて、いったい、どんな話をすればいいだろう?
で悩むことはありません。
――失敗するかしないかは運・不運の問題――
と割り切ります。
そういうところも含めて、
――逸脱的思考
なのです。