マル太の『道草日記』

ほぼ毎日更新――

戦禍の最も残虐な部分

 ウクライナの戦禍によってもたらされた瓦礫や廃墟の惨状を報道で目にすると――

 僕は、東日本大震災津波によってもたらされた光景を思い出します。

 

 あの日――

 僕は、宮城の沿岸から数キロほどしか離れていないところにいて――

 津波の直撃を目の当たりにしました。

 

 津波というのは、大量の海水が押し寄せてくることと思っていましたが――

 実際は、そうではありませんでした。

 

 押し寄せてきたのは、大量の瓦礫です。

 海水によって押し流されてくる瓦礫が、視界に真っ先に飛び込んできたのですね。

 

 その後――

 どこが道路で、どこが宅地かもわからないくらいに――

 辺りは瓦礫で埋め尽くされました。

 

 海水が押し寄せてきたはずなのに――

 あちこちで火の手が上がってました。

 

 タンク・ローリーのようなトラックが押し流されてきていて――

 すぐ傍でも火の手が上がっていました。

 

 十分に肉眼でみえる近さでした。

 

 ――引火したら大爆発だ。

 と誰かがいいました。

 

 (その通りだ)

 と思いました。

 

 ――瓦礫と廃墟と火の手――

 

 それが、東日本大震災津波によってもたらされた光景でした。

 

 その光景を目にしたときに――

 僕は、

 (これが津波でよかった)

 と思いました。

 

 もし、この光景が、津波という自然災害でなく、戦禍という人為災害によってもたらされていたならば――

 その戦禍をもたらしたであろう海外の国家指導者の顔でも思い浮かべ、砂を噛んで血を吐くように、いつまでもいつまでも、呪い続けたに違いありませんでした。

 

 おそらく、心が擦り切れんばかりの勢いで急速に疲弊をしていったでしょう。

 

 実際には――

 戦禍ではなくて、津波でしたから、

 (しょうがない)

 と受け流すことができたのです。

 

 すぐに、

 (自然には勝てないよね)

 と、気持ちを切り替えることができたのです。

 

 ……

 

 ……

 

 ウクライナの人々は今、絶対に、そうはいかないでしょう。

 

 ロシアの国家指導者の顔を思い浮かべて、吐きたくもない呪詛の言葉を吐き続けてい、疲弊をしているはずです。

 

 ――しょうがない。

 と受け流したり、

 ――ロシアには勝てないよね。

 と気持ちを切り替えたりすることは――

 おそらく、絶対にできません。

 

 それが、戦禍の最も残虐な部分です。