短編物語集『堤(つつみ)中納言物語』の一編、
――虫愛づる姫君
の主人公・虫好きの姫のモデルになっているであろう人物――藤原宗輔(ふじわらのむねすけ)の娘――通称、若御前(わかごぜん)――と、平安後期の公卿・藤原頼長(ふじわらのよりなが)とは、
――陰陽(おんみょう)道
を共通の関心事としていたのではないか――
ということを、きのうの『道草日記』で述べました。
ただし――
藤原頼長も若御前も、どちらかというと、急進主義的(radical)な為人(ひととなり)であったと考えられますから――
二人は、
――陰陽道
の、
――呪術や占術の部分
ではなく、
――自然哲学的な部分
への興味を分かち合っていたのではないか、と――
僕は想像をします。
より具体的には、
――陰陽(いんよう)五行(ごぎょう)思想
ですね。
――陰陽五行思想
とは、
――陰陽思想
と、
――五行思想
とが組み合わさった思想です。
簡単にいってしまうと、
――陰陽思想
とは、
――この世界では、あらゆる事物が相反する2つの属性を備えていて、それら属性が互いに調和を保った上で強まったり弱まったりしている。
という考え方で、
――五行思想
とは、
――この世界では、あらゆる事物が木・火・土・金・水の5つの要素から成り立っていて、それら要素が互いに影響を及ぼし合って循環をしている。
という考え方です。
これら2つの思想が組み合わさることで、
――この世界では、木・火・土・金・水の5つの要素が、陰陽の2つの属性を備えつつ、互いに調和を保った上で、影響を及ぼし合い、循環をしている。
という考え方になります。
こうした思想に、若御前が強い興味を抱いたであろうことは、何となく想像ができます。
まさに、
――本地たづねたるこそ、心ばへをかしけれ。
の境地に達した者を惹きつけうる思想であったに違いありません。