マル太の『道草日記』

ほぼ毎日更新――

藤原頼長も若御前も陰陽五行思想に満足はしなかったであろう

 短編物語集『堤(つつみ)中納言物語』の一編、

 ――虫愛づる姫君

 の主人公・虫好きの姫のモデルになっているであろう人物――藤原宗輔(ふじわらのむねすけ)の娘――通称、若御前(わかごぜん)――と、平安後期の公卿・藤原頼長(ふじわらのよりなが)とは、

 ――陰陽(いんよう)五行(ごぎょう)思想

 つまり、

 ――この世界では、木・火・土・金・水の5つの要素が、陰陽の2つの属性を備えつつ、互いに調和を保った上で、影響を及ぼし合い、循環をしている。

 という考え方への興味で繋がっていたのではないか――

 ということを、きのうの『道草日記』で述べました。

 

 とはいえ――

 二人は陰陽五行思想には決して満足をしなかったでしょう。

 

 なぜ、そういえるのか――

 

 ……

 

 ……

 

 陰陽五行思想は、

 ――還元主義(reductionism)

 の亜型とみなせます。

 

 ――還元主義

 とは、

 ――自然界の事物を有限の要素に解(ほぐ)した上で、それら要素の振る舞いによって自然界の事物の振る舞いを説く。

 という考え方です。

 

 現代自然科学は概ね還元主義に立脚をしています。

 

 が――

 還元主義だけでは説明のつかない自然現象は数多く認められています。

 

 例えば、

 ――幼虫から成虫への変態(metamorphosis)

 や、

 ――音楽の美の感受の機序(mechanism)

 などは、それら自然現象の1つです。

 

 若御前も藤原頼長も、急進主義的(radical)な考え方を好んでいたでしょうから、

 ――陰陽五行思想では語れない事物

 の存在には、遅かれ早かれ、気づいたはずです。

 

 ――呪術や占術が主要な目的である陰陽(おんみょう)道はもちろんのこと、陰陽五行思想でさえも、自然界の事物を説くことには限界がある。

 

 そのことに気づいた二人は――

 必ずや次のように問いかけたはずです。

 

 ――であるならば、本地とは、そもそも何なのだ?

 と――

 

 ……

 

 ……

 

 この問いに改めて突き当たったときに――

 二人は、

 ――本地たづねたるこそ、心ばへをかしけれ。

 の境地に本当の意味で達したことでしょう。