マル太の『道草日記』

ほぼ毎日更新――

英傑の指導性(3)

 英傑は、凡人たちの総意の移ろいに、いち早く気づき――

 その移ろいの速度よりも十分に大きな速度で――

 自分の意志を移ろわせる。

 

 そうすることで――

 凡人たちの総意の移ろいの先回りをする。

 

 この、

 ――先回り

 が、

 ――英傑の指導性

 の原理といえる。

 

 この“先回り”は容易に思えるかもしれぬ。

 

 が――

 そんなことはない。

 

 確かに――

 価値評価の疑似空間で――

 凡人たちの総意が、

  速度(0.1,0.1,0.1)

 で移ろう時に――

 それを察し、自分の意志を、

  速度(1,1,1)

 で移ろわせることは――

 容易に思える。

 

 が――

 凡人たちの総意が、

  速度(0.1,0.03,-0.3)

 で移ろう時に――

 それを察し、自分の意志を、

  速度(1,0.3,-3)

 で移ろわせることは――

 さほど容易には思われまい。

 

 その、

  速度(1,0.3,-3)

 が、

  速度(1,0.1,-3)

 や、

  速度(1,0.1,-2)

 では、

 ――先回り

 に失敗をするのである。

 

 おそらく――

 凡人たちの総意の移ろいを鋭敏かつ正確に察し――

 その“先回り”を精緻かつ大胆に行うには――

 天賦の才が要る。

 

 その才がない者は――

 自分の意志を、凡人たちの総意の移ろいからは少しズレた速度で、移ろわせてしまう。

 

 巧みに、

 ――先回り

 をしたつもりが――

 あえなく失敗をするのである。

 

 『随に――』