英傑は、凡人たちの総意の移ろいに、いち早く気づき――
その移ろいの速度よりも十分に大きな速度で――
自分の意志を移ろわせる。
そうすることで――
凡人たちの総意の移ろいの先回りをする。
この、
――先回り
が、
――英傑の指導性
の原理といえる。
この“先回り”は容易に思えるかもしれぬ。
が――
そんなことはない。
確かに――
価値評価の疑似空間で――
凡人たちの総意が、
速度(0.1,0.1,0.1)
で移ろう時に――
それを察し、自分の意志を、
速度(1,1,1)
で移ろわせることは――
容易に思える。
が――
凡人たちの総意が、
速度(0.1,0.03,-0.3)
で移ろう時に――
それを察し、自分の意志を、
速度(1,0.3,-3)
で移ろわせることは――
さほど容易には思われまい。
その、
速度(1,0.3,-3)
が、
速度(1,0.1,-3)
や、
速度(1,0.1,-2)
では、
――先回り
に失敗をするのである。
おそらく――
凡人たちの総意の移ろいを鋭敏かつ正確に察し――
その“先回り”を精緻かつ大胆に行うには――
天賦の才が要る。
その才がない者は――
自分の意志を、凡人たちの総意の移ろいからは少しズレた速度で、移ろわせてしまう。
巧みに、
――先回り
をしたつもりが――
あえなく失敗をするのである。
『随に――』