マル太の『道草日記』

ほぼ毎日更新――

匈奴(4)

 匈奴の君主・冒頓(ぼくとつ)は――

 漢の初代皇帝・劉邦(りゅうほう)をなぜ見逃したのか。

 

 ……

 

 ……

 

 ――最初から殺すことを考えていなかったから――

 と考えるのが自然であろう。

 

 あの時、冒頓が考えていたのは――

 おそらく、

 ――漢の皇帝以下、農耕民たちを懲らしめる。

 ということであった。

 

 中国大陸の農耕民たちからすると――

 遊牧民たちは、北から襲って来て、農地を荒らし、収穫物を奪っていく。

 

 遊牧民たちをこそ懲らしめる必要があった。

 

 が――

 

 ユーラシア大草原の遊牧民たちからすると――

 農耕民たちは、南から移り住んで来て、草原を耕し、農地に変えていく。

 

 どちらの民にも、いい分はあった。

 

 冒頓が劉邦に弁えさせたかったことは、

 ――中国大陸の農耕民たちに、草原と農地との境界を不用意に侵すのをやめさせよ。

 ということであろう。

 

 裏を返せば――

 そこさえ弁えてくれれば、

 ――それ以上の手出しはせぬ。

 ということではなかったか。

 

 ……

 

 ……

 

 以後――

 漢と匈奴とは和親を保つ。

 

 匈奴の君主は漢の皇帝の娘を妻にする――

 漢は匈奴に毎年、品を贈る――

 などの条件が設けられた。

 

 その「和親」の実態は――

 漢が匈奴に対し、

 ――平身低頭に徹する。

 というものであった。

 

 漢の皇帝以下・文武百官は、むろんのこと――

 中国大陸の農耕民たちにとっても――

 屈辱的な恭順であったに違いない。

 

 『随に――』