マル太の『道草日記』

ほぼ毎日更新――

エントロピー(2)

 自然界において、

 ――エントロピー(entropy)は、熱のエネルギーが集まる部分の広さの関数である。

 といえる。

 

 では、

 ――熱のエネルギーが集まる部分の広さ

 とは何なのか。

 

 ――空間の容積

 か。

 

 ……

 

 ……

 

 たしかに、“空間の容積”と無関係ではない。

 

 が――

 本質は、「容積」にではなく、「空間」にある。

 

 精確には――

 その「空間」に存在をしている原子や分子――

 

 さらにいえば――

 それら原子や分子が呈しうる状態の場合の数――

 にある。

 

 熱のエネルギーは、原子や分子が持っているエネルギーに他ならぬ。

 

 つまり、

 ――エントロピーは、熱のエネルギーが集まる部分の広さの関数である。

 とは、

 ――エントロピーは、熱のエネルギーが集まる部分が呈しうる状態の場合の数の関数である。

 と、ほぼ同義である。

 

 このことから――

 エントロピーが、高校の数学で学ぶ自然対数で表されることに――

 直接の根拠が得られる。

 

 以下――

 エントロピー S が、状態の場合の数 W の自然対数であることを示そう。

 

 ……

 

 ……

 

 自然界において、ある空間の容積 V が呈しうる状態の場合の数を W とする。

 

 今――

 熱のエネルギーが集まる部分に、温度が一定であるように注意をしながら、少量のエントロピー ΔS を注ぎ込む。

 

 この時――

 V は、 ΔV だけ増え、V + ΔV となる。

 

 一方――

 ΔS が注ぎ込まれる前のその部分のエントロピーを S とすると――

 V が V + ΔV となる時、S は S + ΔS となる。

 

 この変化は、直接的には、ΔS が注ぎ込まれる時、相当な数の原子や分子が注ぎ込まれることに由来をしている。

 

 ここで留意をするべきは――

 原子や分子の数が、状態の場合の数 W を決める――

 ということである。

 

 簡単にいえば――

 原子や分子の数が増えれば、状態の場合の数 W も増える。

 

 ただし――

 W は場合の数なので、増え方が V や S とは異なる。

 

 V が V + ΔV となり、S が S + ΔS となる時――

 W は W × Δw となる。

 

 ここでいう Δw は、W を定めうる要素の数――例えば、原子や分子の数――の変化に伴う W の変化である。

 

 身近な例で説明をすれば――

 サイコロ 10 個の目の出方の場合の数は、

  6^10

 であり――

 これにサイコロ 1 個を加えると、目の出方の場合の数は、

 

  6^(10 + 1)

  = 6^10 × 6^1

 

 である。

 

 この例では、

 

  W = 6^10

  Δw = 6^1

 

 であることに留意をされたい。

 

 このことから、W と S との関数の形が決まる。

 

 S は W の関数であった。

 

 ――エントロピーは、熱のエネルギーが集まる部分の広さの関数である。

 とは、

 ――エントロピーは、熱のエネルギーが集まる部分が呈しうる状態の場合の数の関数である。

 ということであり――

 つまり、

 ――エントロピー S は、状態の場合の数 W の関数である。

 ということである。

 

 S が W の関数であれば――

 通常、W は S の関数でもある。

 

 W が S の関数であることを、

  W = W (S)

 と表す。

 

 S が S + ΔS となる時――

 W が W × Δw となることは、既に述べた。

 

 このことは、

  W ( S + ΔS ) = W (S) × W (ΔS)

 であることを示す。

 

 今、

  ΔW (S) = W ( S + ΔS ) − W (S)

 とすると、

 

  ΔW (S) / ΔS =(W ( S + ΔS ) − W (S))/ ΔS

  ⇔ ΔW (S) / ΔS =(W (S) × W (ΔS) − W (S))/ ΔS

  ⇔ ΔW (S) / ΔS = W (S) ×{(W (ΔS) − 1)/ ΔS}

 

 を得る。

 ここで、W (S) が 1 の時に S = 0 と決めれば、

  W (0) = 1

 であるから、

 

  ΔW (S) / ΔS = W (S) ×{(W (ΔS) − 1)/ ΔS}

  ⇔ ΔW (S) / ΔS = W (S) ×{(W (ΔS) − W (0))/ ΔS}

 

 を得る。

 

 ここで、関数 W (S) が S = 0 で微分可能と仮定をすれば、

  (W (ΔS) − W (0))/ ΔS

 は、ΔS を 0 に近づける時、定数 W ' (0) の値をとる。

 ただし、W ' (S) は W (S) の導関数である。

 

 この時、

  ΔW (S) / ΔS = W (S) ×{(W (ΔS) − W (0))/ ΔS}

 は、

  dW (S) / dS = W (S) × W ' (0)

 である。

 

 よって、

  dW (S) / W (S) = W ' (0) dS

 を得る。

 

 両辺の不定積分をとると、

  ln W (S) = W ' (0) ×(S + C)

 を得る。

 ただし、C は定数である。

 

 S = 0 の時、

  W (S) = 1

 であったから、

  W ' (0) × C = 0

 である。

 

 この時――

 もし、

  W ' (0) ≠ 0

 であれば、

  C = 0

 といえる。

 

 よって――

 W ' (0) の逆数を k とすれば、

 

  ln W (S) = W ' (0) ×(S + C)

  ⇔ S = k ln W (S)

 

 を得る。

 

 つまり、

  S = k ln W

 である。

 

 いいかえれば――

 エントロピー S は、状態の場合の数 W の自然対数である――

 である。

 

 ところで――

 先ほど、関数 W (S) が S = 0 で微分可能と仮定をした。

 

 もし――

 この仮定が、

  S = k ln W

 の下で、成り立たないのであれば、

  S = k ln W

 は間違いであり――

 

 エントロピー S は、状態の場合の数 W の自然対数である――

 とはいえぬ。

 

 実際は、どうか。

 

  S = k ln W

 であれば、

  W (S) = e ^(S / K)

 であり――

 W (S) は S = 0 で微分可能であり――

 かつ、

  W ' (0) = 1 / k

 である――

 とわかる。

 

 よって、

  S = k ln W

 で間違いはない。

 

 つまり――

 エントロピー S は、状態の場合の数 W の自然対数である――

 と確かにいえる。

 

 『随に――』