自然界において、
――エントロピー(entropy)は、熱のエネルギーが集まる部分の広さの関数である。
といえる。
では、
――熱のエネルギーが集まる部分の広さ
とは何なのか。
――空間の容積
か。
……
……
たしかに、“空間の容積”と無関係ではない。
が――
本質は、「容積」にではなく、「空間」にある。
精確には――
その「空間」に存在をしている原子や分子――
さらにいえば――
それら原子や分子が呈しうる状態の場合の数――
にある。
熱のエネルギーは、原子や分子が持っているエネルギーに他ならぬ。
つまり、
――エントロピーは、熱のエネルギーが集まる部分の広さの関数である。
とは、
――エントロピーは、熱のエネルギーが集まる部分が呈しうる状態の場合の数の関数である。
と、ほぼ同義である。
このことから――
エントロピーが、高校の数学で学ぶ自然対数で表されることに――
直接の根拠が得られる。
以下――
エントロピー S が、状態の場合の数 W の自然対数であることを示そう。
……
……
自然界において、ある空間の容積 V が呈しうる状態の場合の数を W とする。
今――
熱のエネルギーが集まる部分に、温度が一定であるように注意をしながら、少量のエントロピー ΔS を注ぎ込む。
この時――
V は、 ΔV だけ増え、V + ΔV となる。
一方――
ΔS が注ぎ込まれる前のその部分のエントロピーを S とすると――
V が V + ΔV となる時、S は S + ΔS となる。
この変化は、直接的には、ΔS が注ぎ込まれる時、相当な数の原子や分子が注ぎ込まれることに由来をしている。
ここで留意をするべきは――
原子や分子の数が、状態の場合の数 W を決める――
ということである。
簡単にいえば――
原子や分子の数が増えれば、状態の場合の数 W も増える。
ただし――
W は場合の数なので、増え方が V や S とは異なる。
V が V + ΔV となり、S が S + ΔS となる時――
W は W × Δw となる。
ここでいう Δw は、W を定めうる要素の数――例えば、原子や分子の数――の変化に伴う W の変化である。
身近な例で説明をすれば――
サイコロ 10 個の目の出方の場合の数は、
6^10
であり――
これにサイコロ 1 個を加えると、目の出方の場合の数は、
6^(10 + 1)
= 6^10 × 6^1
である。
この例では、
W = 6^10
Δw = 6^1
であることに留意をされたい。
このことから、W と S との関数の形が決まる。
S は W の関数であった。
――エントロピーは、熱のエネルギーが集まる部分の広さの関数である。
とは、
――エントロピーは、熱のエネルギーが集まる部分が呈しうる状態の場合の数の関数である。
ということであり――
つまり、
――エントロピー S は、状態の場合の数 W の関数である。
ということである。
S が W の関数であれば――
通常、W は S の関数でもある。
W が S の関数であることを、
W = W (S)
と表す。
S が S + ΔS となる時――
W が W × Δw となることは、既に述べた。
このことは、
W ( S + ΔS ) = W (S) × W (ΔS)
であることを示す。
今、
ΔW (S) = W ( S + ΔS ) − W (S)
とすると、
ΔW (S) / ΔS =(W ( S + ΔS ) − W (S))/ ΔS
⇔ ΔW (S) / ΔS =(W (S) × W (ΔS) − W (S))/ ΔS
⇔ ΔW (S) / ΔS = W (S) ×{(W (ΔS) − 1)/ ΔS}
を得る。
ここで、W (S) が 1 の時に S = 0 と決めれば、
W (0) = 1
であるから、
ΔW (S) / ΔS = W (S) ×{(W (ΔS) − 1)/ ΔS}
⇔ ΔW (S) / ΔS = W (S) ×{(W (ΔS) − W (0))/ ΔS}
を得る。
ここで、関数 W (S) が S = 0 で微分可能と仮定をすれば、
(W (ΔS) − W (0))/ ΔS
は、ΔS を 0 に近づける時、定数 W ' (0) の値をとる。
ただし、W ' (S) は W (S) の導関数である。
この時、
ΔW (S) / ΔS = W (S) ×{(W (ΔS) − W (0))/ ΔS}
は、
dW (S) / dS = W (S) × W ' (0)
である。
よって、
dW (S) / W (S) = W ' (0) dS
を得る。
ln W (S) = W ' (0) ×(S + C)
を得る。
ただし、C は定数である。
S = 0 の時、
W (S) = 1
であったから、
W ' (0) × C = 0
である。
この時――
もし、
W ' (0) ≠ 0
であれば、
C = 0
といえる。
よって――
W ' (0) の逆数を k とすれば、
ln W (S) = W ' (0) ×(S + C)
⇔ S = k ln W (S)
を得る。
つまり、
S = k ln W
である。
いいかえれば――
エントロピー S は、状態の場合の数 W の自然対数である――
である。
ところで――
先ほど、関数 W (S) が S = 0 で微分可能と仮定をした。
もし――
この仮定が、
S = k ln W
の下で、成り立たないのであれば、
S = k ln W
は間違いであり――
エントロピー S は、状態の場合の数 W の自然対数である――
とはいえぬ。
実際は、どうか。
S = k ln W
であれば、
W (S) = e ^(S / K)
であり――
W (S) は S = 0 で微分可能であり――
かつ、
W ' (0) = 1 / k
である――
とわかる。
よって、
S = k ln W
で間違いはない。
つまり――
エントロピー S は、状態の場合の数 W の自然対数である――
と確かにいえる。
『随に――』