――エントロピー(entropy)
という物理量の存在に史上はじめて気づいたのは――
19世紀ドイツの物理学者ルドルフ・クラウジウス(Rudolf Clausius)であった――
と考えられる。
当初――
この物理量の真の意味を、科学者たちは、クラウジウス当人も含め、十分には説き明かせなかった。
クラウジウスは、エントロピーを、
――熱のエネルギーの量を温度――絶対温度――で割った値の量――
と定めていた。
ところが――
そもそも――
温度は熱のエネルギーの量の指標である。
例えば、自然界のある部分に熱のエネルギーが集まれば、その部分は熱くなる――
つまり、温度は上がる。
いいかえれば――
その部分に集まっている熱のエネルギーの密度――例えば、単位体積当たりの熱のエネルギーの量――が一定ならば、その部分の広さに関わらず、温度は一定である。
よって――
熱のエネルギーの量を温度で割った値も、一定になりそうだが――
実際は、一定とはならぬ。
なぜか。
それには、熱のエネルギーが集まっている部分の広さも――
関わってくるからである。
……
……
今――
温度 T である自然界のある部分に、一定の密度で熱のエネルギーが集まっているとしよう。
その部分に、Q という量の熱のエネルギーを注ぎ込む。
この時、温度が T のまま一定であり続けるには、熱のエネルギーが集まる部分を相応に広くしなければならぬ。
その広くなった部分に、エントロピー Q / T が注ぎ込まれ――
その結果、その部分に集まる熱のエネルギーの密度は一定で、温度も一定であるが、エントロピーは Q / T だけ増える。
つまり――
この場合――
エントロピーは、熱のエネルギーが集まる部分の広さと密接に関わっていることになる。
いいかえると――
エントロピーは、熱のエネルギーが集まる部分の広さの関数――
ということである。
『随に――』