自宅に携帯電話を忘れたままで、街に出た。
途中で気付き、引き返そうかと思ったが――
やめにした。
(たまにはケイタイなしでいこう)
と思ったからである。
*
僕が携帯電話を持ち始めたのは、2000年頃であった。
すでに世の中の過半の人々が携帯電話を使いこなしていた。
僕が携帯電話に乗り遅れたのは――
それを少々、生き苦しく感じていたからだ。
――首輪を付けられた気分
といえば大仰だが――
何となく不自由な生活になるような気がしたのである。
実際は逆であった。
今では、携帯電話を持たずに外出をすることは、ほとんどない。
むしろ、携帯電話が手元にないと、落ち着かなくなる。
首輪を望むイヌがいるとしたら――
たぶん、こんな気分なのであろう。
だから――
今日、携帯電話を自宅に取りに帰らなかったのは――
そうした意味合いもある。
つまり、
(ちょっと最近、携帯電話にベッタリだったよな)
と、反省したい気分であったのだ。
自宅に携帯電話を忘れるリスクの際たるものは――
大事な用件のお預けを喰らうことであろう。
もちろん、場合によっては、先方にも迷惑がかかるのかもしれないが――
一番に困るのは、たぶん自分である。
それがイヤだから、携帯電話を携帯する。
が、今日は、
(いいや!)
と思った。
少しナゲヤリな気分であった。
(どうせ、誰も連絡してこないよ)
と――
案の定、誰も連絡をしてこなかった。
外出から戻り、早速、携帯電話の履歴をみると――
朝にみたままであった。
普段の状況からすると――
とくに確率的におかしなことではない。