『覆面作家企画3“冬”』Cブロック(序盤)の感想です。
覆面作家企画3“冬”
http://fukumennkikaku.web.fc2.com/3/index2.htm
覆面作家企画については、2008年2月1日の『道草日記』を御覧下さい。
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C1 毒
深いお話ですね。
人間が鋭く描かれています――しかも温かみのある文体で――
安彦良和さんの作品を思い出しました。
安彦さんはマンガ家で、人間の描写に優れた作家さんです。安彦さんの作品に『ヴイナス戦記』というのがあります。金星を舞台にした宇宙活劇で、前半と後半とで、ほぼ別個の物語になっています。
後半は、将校の青年と下士官の少年との物語です。将校の青年は野心家で、現行政権の転覆を画策します。その謀略のために、下士官の少年は、自分の憧れの女性を殺されます。
物語のクライマックスで、青年は軍事蜂起をしますが、敗れて傷を負い、最期の時を迎えます。そこへ少年が現れ、青年に止めを刺すのですね。青年の野望の頓挫には少年も一役買っていました。
治安が回復された後、少年は現行政権に報賞され、一躍、英雄となります。これでハッピー・エンドかと思いきや――少年は、新たな旅立ちを前に荒野で狙撃され、孤独に息絶えます。少年は国家の暗い部分をみすぎていたのです。
この少年の姿に、ヒオドの言動が重なりました。革命の「裏方」を自認する男が、新政権樹立の功績を一人で背負わされたら、末路は想像に難くありません。
その危うさを、チタは直感で見抜いたのです。じきにヒオドも殺される、愚直に任を果たした兄と同じように、と――
「毒を入れた」というチタの言葉は、革命に深く関わりすぎたヒオドへの警告ではなかったでしょうか。
チタに殺意が全くなかったわけではないと、僕は考えています。手元に本物の毒があれば、あっさり殺していたかもしれない――もちろん、それが無益なことはわかっている――だから警告にとどめた――いや、警告はチタの悲痛な叫びであったのかもしれません。
チタの警告には怨嗟が絡んでいたでしょう。ヒオドに向けられた怨嗟ではありません。革命によって兄を殺され、その兄を欺くまでして救った男も殺されようとしている――そうした不条理への精一杯の抵抗が「毒を入れた」という言葉に結実したのではなかったでしょうか。
チタの「毒」は、チタの料理それ自体であったでしょう。ヒオドが、チタの料理を不思議と思わず、あの夜と同じように、むしろ気をよくして平らげるならば、チタの料理は、まさに毒となりえます。
洗練された文章で、ストーリーの完成度も高く、キャラクターが躍動しているので、物語の世界にスっと入っていけました。にもかかわらず、ヒオドの言動には強い違和感を覚えちゃったのですよね。
(お前、自分がしたこと、ちゃんとわかってんのか?)
みたいに説教したくなりましたよ(笑
たぶん、それも作者さまの計算の内でしょう。
C2 舞夜空(まいよぞら)
映像的な作品だと感じました。克明な描写があるわけでもないのに、盆踊りの情景が具体的に浮かんできます。
「盆踊り」という素材がいいですね。日本人の心象を感傷的に刺激します。
その刺激は強く、あとでジワジワと効いてきます。
自分が死者であることに気づかない少女が盆踊りの輪を羨み続けている――死者の輪に加わって漸(ようや)くみせた楽しげな様子――
悲しいですね、実に悲しい――人の命の儚さを痛感させる情景です。
タイトルが印象的ですね。音も字面も素晴らしい――
友人が、いかにも僕がつけそうなタイトルだと推理してくれたのですが、たいへんに嬉しく思いました。
C3 ジンニーと魔法の絨毯
スルタンのサディスティックな愛情表現が、何ともいえずに微笑ましい――いや、「微笑ましい」というのは、ちょっと美化しすぎかな(笑
なんといいますか、
(一見、理性的に振る舞っているようで、実は、わりと男としての欲望には忠実なのね)
みたいな――(笑
ルゥルゥに、もう少しマゾヒスティックな性癖が加われば、二人の相性はバッチリなんでしょうにねえ(笑
誰か、調教してあげればいいのに――(違
ジンニーの次の仕事は、それだな(こら
テンポの良い筆遣いは読者を飽きさせません。しかも、ほぼ即興でお書きになっている気がします。
ジャズの演奏のようです。
C4 起源の探査
この作品は、僕が書きました。
推敲が足りなかったと反省をしています。もう少し言葉を慎重に選びたかったかな、と――
実は、提出の直前に差し替えたのですね――当初の作品がイマイチだったので――
後悔はしていませんが――
ハードSF路線の決め打ちですから、ほとんど相手にされないと思っていました。
好意的な御感想は予想外でした。ありがとうございます。