冗談のセンスというのは――
なかなか共有されないものです。
ある人にとっての優れた冗談が――
別の誰かにとっての拙い雑言になりえます。
だから――
冗談というものは決して不用意にいわないほうがよいと、僕は思うのですが――
ただ――
自分の周りの人が不用意に冗談をいうことは、あるでしょう。
そういうときに――
それにどうやって対処するかは、そんなに簡単ではありません。
いちばん無難な対処法は無視――あるいは、聞こえなかったふり・見えなかったふり――ですが――
それでは、その不用意な冗談をいうような人に、
――冗談のセンスのない人
と不当なレッテルを貼られかねません。
例えば――
自分の目の前で、さも大げさな口調で、
――北朝鮮のキム・ジョンウン第一書記って、世界で一番セクシーな男性だと思うな。
といわれたとして――
単に聞こえなかったふりをしたところで、得られるものは何もないばかりか、
――つまらない奴
と、無意味に蔑まれたりしかねないのです。
それよりは――
何か具体的な応答で返したほうがよいに決まっていて――
例えば、同じような大げさな口調で、
――へえ~! そうなんだ。いったい、どこがセクシーなの?
と訊き返したり――
あるいは、
――いや、うちの町内会の書記係のほうがセクシーだと思う。
と言い返したり――
そういう応答に必要な知的瞬発力というのは――
日頃の社交を円滑に維持するためには、ぜひ鍛えておきたいものですね。
……
……
ところで――
この冗談「北朝鮮のキム・ジョンウン第一書記って、世界で一番セクシーな男性だと思うな」は――
実際にアメリカの風刺報道機関『ジ・オニオン(The Onion)』が、先月、配信した記事なのだそうですが――
ちょっと不用意な冗談ではないでしょうか。
実際に、ピョンヤンあたりで、キム第一書記のことを本気でそう思っている若い女性がいないとも限らない、という一点において――
あの国が抱える問題の大きさが――
あるいは、北東アジアが直面している政治・社会危機の深刻さが――
多少なりとも矮小化されている、といってよいでしょう。