マル太の『道草日記』

ほぼ毎日更新――

再びクラリス・バルカの物語

 カルタゴの将軍ハンニバル・バルカの物語の相手役として――
 ローマの軍人・政治家であった大スキピオ――異称スキピオ・アフリカヌス――について――

 きのうまでの『道草日記』で――
 僕が延々と語ってきたのは――

 とりもなおさず――
 クラリス・バルカの物語の相手役を考えたいがためです。

 ――クラリス・バルカ

 とは――
 6日前の『道草日記』(2018年2月27日)で述べたように――

 もし――
 ハンニバル・バルカの物語の主人公を女性にするならば――
 その主人公の名です。

 超人的な身体能力をもちながら――
 ふつうの人間と同じようにコミュニケーションがとれ、ふつうの人間と同じような外見をしている女性――

 もちろん――
 若くて美しければ、物語は映えるでしょう。

 ついでに不老不死であったりすれば――
 なお、よいに違いありません。

 とにかく――
 女性でありながら、ハンニバル・バルカのような人生を歩む人物ですから――
 そのキャラクター造形は、とことん荒唐無稽がよいのです。

 クラリス・バルカは――
 あくまで、ハンニバル・バルカと同じように――
 冬のアルプス(それとよく似た山脈)を越え、カンナエの戦い(それとよく似た戦い)で敵軍を包囲し、殲滅するものの――
 何ら戦略上・外交上の成果をあげることなく、むなしく母国へ帰還をし――
 その母国の防衛の最終局面で、今度は自軍が包囲殲滅させられる――

 そういう女性です。

 ……

 ……

 このクラリス・バルカの相手役として――
 どのような人物が適当でしょうか。

 もちろん――
 ハンニバル・バルカの相手役である大スキピオを踏襲するのが早道です。

 今――
 この相手役を、便宜上、

 ――大スキピオ

 と呼びましょう。

 大スキピオ改は、クラリス・バルカの10歳ほど年下です。

 クラリス率いる数万の軍が、冬のアルプス(それとよく似た山脈)を越えてイタリア(それとよく似た半島)に侵入してくると――
 大スキピオ改は、カンナエ(それとよく似た地)で、若き部将の一人として、クラリスの軍とぶつかります。

 そこで、クラリスの天才的な用兵術を目の当たりにし、

 ――何という女だ。

 と舌を巻きます。

 偶然、重装歩兵を指揮するクラリスの姿態が遠目に入り――
 さらに慄然とします。

 ――若い……私と大して変わらぬ齢ではないか。

 と――

 クラリスは不老不死なので――
 三十路に入ってなお、二十歳前後の容貌を保っていたのです。

 そして――
 後年――
 ザマ(それとよく似た地)で会談する際には、

 ――なんと……あの頃と容貌が変わっていない。

 畏怖とも憎悪ともつかぬ感情に混じって――
 思慕とも憧憬ともつかぬ感情を自覚し――
 大スキピオ改は戸惑います。

 こんな伏線があれば――
 戦勝後に、クラリスを赦し、母国の復興を任せるくだりは――
 また、違った趣きとなります。

 さらに――
 後年の失脚についても――
 政敵から、

 ――クラリスの魔女の色気に惑わされた俗物

 と誹られ続けて民心に見放されたことが遠因であった――
 ということにします。

 そして――
 例の2回目の会談では――

 大スキピオ改が隠棲していた小村に――
 クラリスが訪ねることにします。

 大スキピオ改は年老いて――
 今わの際にありました。
 
 力なく病床から、

 ――史上最高の戦術指揮官は誰か。

 と問い――
 クラリスは、稀代の大王の名や、その後継者の名を挙げたあと、

 ――3番目は貴男だ。

 と答えます。

 ――儂が?

 意外そうに問い返す大スキピオ改に、

 ――その通り

 と微笑むクラリス――

 ――では、貴女は何番目なのか。

 上体を起こしかけた大スキピオ改を優しく制しながら、

 ――私は、この通り、普通の人間ではない。比べることは公平でない。

 と笑うクラリス――
 そのいつまでも若々しい笑顔に神々しい輝きをみてとって――
 大スキピオ改は、

 ――少なくとも私にとっては、貴女が史上最高の戦術指揮官であった。

 と呟き――
 目を閉じる――

 そんな場面が――
 最後の見せ場でしょうか。