マル太の『道草日記』

ほぼ毎日更新――

ハンニバル・バルカの相手役(2)

 ハンニバル・バルカの相手役として最も傑出しているのは――
 おそらくは、

 ――大スキピオ――異称スキピオ・アフリカヌス

 であることを――
 きのうの『道草日記』で述べました。

 その理由は――
 大スキピオが、ハンニバルの戦略を挫いた立役者でありながら――
 ハンニバルの戦術家としての技量を誰よりも高く評価していたらしいことです。

 そして――
 ハンニバルのほうも――
 自身の拠点であったイベリア半島を瞬く間に攻略し、自身をイタリア半島に孤立させた若きローマの戦略家・政治家に一目を置いていた節があります。

 たしかに――
 ハンニバルにとって、大スキピオは弟ハスドルバルを戦死に追いやった張本人で――
 その弟の首が自分の陣地に投げ込まれた経緯を考えれば――
 複雑な思いを抱えたことは間違いないと思いますが――

 一つ忘れてはならないことは――
 ハンニバルの弟バスドルバルをイタリア半島で敗死させ、その首をハンニバルの陣地に投げ込むように命じたのは、大スキピオではない――
 という点です。

 大スキピオイタリア半島でのバスドルバル追討には関わっていません。

 バスドルバルの軍を捕捉し、これを壊滅させたのは――
 ローマ軍の別の武将でした。

 そもそも――
 大スキピオは、「首を投げ込む」といった過剰ともいえる示威行為をしそうにない人物です。

 大スキピオが、父や伯父の仇を討つため、イベリア半島へ赴き、首尾よくカルタゴ軍を駆逐したときのこと――
 地元の有力者が大スキピオに、自身の娘を、

 ――妾に――

 と献上します。

 ところが――
 その娘には婚約者がいて――
 それに気づいた大スキピオは、一緒に献上された金銀財宝も添え、娘を送り返したそうです。

 もちろん、

 ――妾に異民族の娘など、迷惑千万!

 というのが本心であったかもしれませんが――

 とにかく、本心はおくびにも出さず――
 イベリア半島でのローマの盛名に傷がつかないよう、政治的に周到な配慮ができる資質を――
 大スキピオは備えていました。

 そういう人物であったからこそ――
 ハンニバルも、弟の非業の死を乗り越え、大スキピオに一定の敬意を払えたのでしょう。