短編物語集『堤(つつみ)中納言物語』の一編、
――虫愛づる姫君
の主人公・虫好きの姫は――
古代ギリシャの叙事詩『オデュッセイア』の王女ナウシカアーが経たような、
――異世界からの訪問者との出会い
や、
――その出会いに続く旅立ち
を経ていない――
ということを、きのうの『道草日記』で述べました。
そのような出会いや旅立ちを――
その直系の継承者であるナウシカ――漫画『風の谷のナウシカ』の主人公ナウシカ――は経ていますが――
それらは、作者の宮崎駿さんが、本来ならば、
――虫愛づる姫君
の主人公・虫好きの姫こそが経るべき出会いであり、旅立ちであった、と――
お考えになっていたはずです。
では――
その虫好きの姫こそが経るべきであった出会いや旅立ちというのは、どのようなことであったのか――
……
……
――虫愛づる姫君
の物語の舞台は平安期です。
虫好きの姫は、平安後期の公卿・藤原宗輔(ふじわらのむねすけ)の娘がモデルになっている、との見方があります。
この見方に従えば、虫好きの姫は平安後期の女性です。
その平安後期の時代背景を考えますと――
虫好きの姫が出会うべきであったのは、
(しかるべき武家の棟梁ではなかったか)
と僕は感じます。
――武家の棟梁
というのは、簡単にいってしまうと、当時、軍事を専門に司っていた下級貴族のことです。
当時、武家の棟梁たちの多くは畿内に本拠を構えていたようです。
が――
あの虫好きの姫に似つかわしい武家の棟梁は、九州や関東など、京の都からは遠く離れたところに本拠を構えていた者でしょう。
そのような者と出会い――
その者が本拠を構える遠方の地へと旅立つ――
それこそが――
虫好きの姫に見合った出会いであり、旅立ちであった、と――
僕は思います。