短編物語集『堤(つつみ)中納言物語』の一編、
――虫愛づる姫君
について――
この 300 ~ 1,000 年の間に――
数多くの作家たちが、
――自分だったら、どんな物語にするか。
との観点から熟慮熟考を重ね、場合によっては、試行錯誤を繰り返したはずである――
ということを、きのうの『道草日記』で述べました。
ご存じの方が多いと思います。
この、
――虫愛づる姫君
は、1980年代に発表をされた漫画およびアニメーション映画『風の谷のナウシカ』の主人公のキャラクター造形に強い影響を与えています。
作者の宮崎駿さんご自身が随筆で触れていらっしゃるのです。
宮崎さんは、
――虫愛づる姫君
に足りなかったのは、
――異世界からの来訪者との出会い
および、
――その出会いに続く旅立ち
である――
とお考えになったそうです。
そして――
そうした出会いや旅立ちの原形として――
古代ギリシャの叙事詩『オデュッセイア』の一場面に着目をされました。
この王女は、漂着をした血塗れの航海者を恐れず、むしろ助け、その話を詳しく聞き、やがて、恋をします。
が、王女は漂着をした航海者が生国へ帰りたがっていることを察し、「国へ帰って、いつか私のことを思い出してほしい」と告げて見送るのです。
その後、王女は最初の女性吟遊詩人となって諸国を渡り歩きながら、航海者の冒険譚を歌い続けたとされています。
この王女の名「ナウシカアー」が『風の谷のナウシカ』の主人公に受け継がれていることは言をまたないでしょう。
ところで――
古代ギリシャの叙事詩『オデュッセイア』のナウシカアーは、とくに虫好きというわけではありません。
一方――
宮崎駿さんの漫画・アニメーション映画『風の谷のナウシカ』のナウシカは、幼少の頃から蟲(むし)と触れ合うことを好み、蟲との共存を願ってきた少女として描かれています。
ナウシカが、
――虫愛づる姫君
の主人公・虫好きの姫の直系の継承者であることは明らかです。