短編物語集『堤(つつみ)中納言物語』の一編、
――虫愛づる姫君
の物語に躍動をもたせる工夫として、
――主人公・虫好きの姫が、武家の棟梁と出会い、九州や関東へ旅立って、そこで蝗害(こうがい)に遭う。
という展開が考えられることを――
9月29日の『道草日記』で述べましたが――
さらに別の展開も考えられるということを――
きのうの『道草日記』で述べました。
いったい――
どのような展開か――
……
……
――主人公・虫好きの姫が安楽椅子探偵(armchair detective)のような役回りを演じる。
という展開です。
――安楽椅子探偵
というのは、推理小説などの用語で、
――事件の現場へ自ら赴くことをせずに、自宅で安楽椅子に座りながら、訪問者や新聞記事などから情報を集めるだけで、事件の真相を探り当てていく探偵
を指します。
もちろん――
虫好きの姫は平安期の女性ですから、安楽椅子に座ったり新聞記事を読んだりするわけにはいきませんが――
訪問者から情報を集めることに関しては、まったく問題がありません。
主人公・虫好きの姫が、事件の現場へ赴くことなく、あらゆる事件に関われるのであれば――
物語は十分に躍動をします。
そして、何よりも――
物語の展開の自由度が高まるのです。
とくに武家の棟梁に出会う必要もなく、九州や関東へ旅立つ必要もなく、とくに蝗害に遭う必要もない――
京の都にいたままで、蝗害以外の事件に遭ってもよいし、もちろん、蝗害に遭ってもよい――
一般に――
主人公に安楽椅子探偵型の登場人物を据える場合には――
主人公に事件の情報をもたらす訪問者の人物造形が鍵を握りますが――
平安期の貴族階級の若い女性なら、工夫の余地が大いにあります。
例えば、執事級の召使や内働きの召使、下働きの召使――
あるいは、兄や弟などの同胞の男性――
あるいは、通ってくる恋人など――
訪問者の人物造形は選りどり見どりです。