短編物語集『堤(つつみ)中納言物語』の一編、
――虫愛づる姫君
の物語に躍動をもたせる工夫として、
――主人公・虫好きの姫が安楽椅子探偵(armchair detective)のような役回りを演じる。
という展開が考えられることを――
きのうの『道草日記』で述べました。
そして――
主人公に安楽椅子探偵型の登場人物を据える場合には――
主人公に事件の情報をもたらす訪問者の人物造形が鍵を握る、とも――
……
……
主人公に事件の情報をもたらす訪問者は――
その人物造形の在り方もさることながら――
主人公との関係性が大切です。
仲が良いのか悪いのか――
あるいは――
一見、仲が悪いようでいて、実は固い絆で結ばれているとか――
一見、仲が良いようでいて、実は陰で暗闘を繰り広げているとか――
……
……
虫好きの姫についていえば――
やはり、“虫好き”の性質がありますから――
事件の情報をもたらす訪問者は、実際に野山に分け入って虫を採ってくる下働きの召使などが適当でしょう。
が――
それだけですと、虫好きの姫が貴族階級に属していることが今一つ伝わりにくくなるので――
例えば、執事級の召使も併せて事件の情報をもたらすような展開がよいでしょう。
あるいは、通ってくる恋人とか――
虫好きの姫の場合は、そうした情報提供者が 3 人くらいいるほうがバランスがとれるに違いありません。
それら 3 人と虫好きの姫との関係性も―t―
それぞれ三者三様であるほうが面白くなるはずです。
下働きの召使とは、幼少の頃から、すこぶる仲が良くて――
執事級の召使とは、いつも反目をしあっているけれども、本音では互いに深く信頼をしあっていて――
通ってくる恋人とは、表面上は仲睦まじいけれども、実際には打算で付き合っているとか――
そのような情報提供者を設えることで――
虫好きの姫の物語に厚みや広がりが生じます。