短編物語集『堤(つつみ)中納言物語』の一編、
――虫愛づる姫君
の物語では――
まずは主人公・虫好きの姫に“虫好き”の性質を存分に呈させる必要があった――
ということを、きのうの『道草日記』で述べました。
具体的に――
どんなふうに“虫好き”の性質を呈させればよかったのか――
……
……
――蝗害(こうがい)
が足がかりとなりうることは――
9月30日の『道草日記』で述べました。
虫好きの姫が蝗害に遭うのです。
いきなり蝗害に遭うよりは――
遠方で蝗害が発災をしていることを聞きつけて、
――これは、何か変だ。
と察知をさせる――
そして、居ても立っても居られなくなって、自ら現場に出かけ、大量に発生をしたバッタ類に起こっている異変の本態を探りに行く――
今日――
蝗害には相変異(そうへんい)と呼ばれる現象が背景にあることがわかっています。
相変異とは、個体の密集度が通常よりも高まると、個体の外見が変わり、個体の行動が変わる現象です。
バッタ類の場合は、相変異を起こすと、翅(はね)が長くなったり、足が短くなったり、体の色が緑っぽい色から焦げ茶っぽい色へ変わったりします。
そして、相変異を起こす前は、各個体が単独で暮らしているのに、相変異を起こすと、大きな群れを作って暮らし始め、通常では食べない草木まで食べ尽くすようになるのです。
群れの大きさは、ときに数百キロ四方にも及ぶそうです。
こんなバッタ類の群れが草木を食べ尽くすのですから大変です。
もちろん、農作物も食べ尽くされます。
群れが訪れた地方では、とんでもない飢饉が発生をすることになります。
このように――
蝗害は、災害対策の観点からみて、大問題なのですが――
それだけでなく、自然科学の観点からみても、実に謎の多い問題です。
虫好きの姫は――
多くの人々が、今日でいうところの災害対策の観点にとらわれるなかで――
一人、自然科学の観点にも深い関心を寄せるでしょう。
そこに――
物語の紡ぎ手は、虫好きの姫の“虫好き”の性質の本領を見出せるのです。