マル太の『道草日記』

ほぼ毎日更新――

虫愛づる姫君:「“虫好き”だから、恋すらもできないんだよね」の出発点にとどまっている

 短編物語集『堤(つつみ)中納言物語』の一編、

 ――虫愛づる姫君

 が物語として停滞をしたように思えるのは――

 主人公・虫好きの姫に恋愛事をもちこんだからである――

 ということを、きのうの『道草日記』で述べました。

 

 厳密には、

 ――恋愛事をもちこんだから停滞をした。

 ではなく、

 ――恋愛事を不用意にもちこんだから停滞をした。

 です。

 

 主人公の女性に“虫好き”という性質を負わせておきながら、それに凡百な恋愛事をあてがってしまうと――

 何のために、わざわざ主人公の女性に“虫好き”という性質を負わせたのかが、よくわからなくなります。

 

 まずは主人公の女性に“虫好き”の性質を存分に呈させる――

 その性質に基づいて果敢に行動をさせ、冷静に思考をさせ、さらに果敢に行動をさせる――

 そうした行動・思考を積み重ねていく過程において、あるときに思いがけず恋愛事が降りかかっていく――

 

 主人公の女性が誰かに惚れてもよいし、誰かに惚れられてもよい――

 

 とにかく――

 主人公の女性が存分に“虫好き”として行動や思考を重ねていく結果として――

 誰かとの恋愛関係に必然的に陥っていく――

 

 そんな展開であれば――

 虫好きの姫に恋愛事をもちこんだとしても――

 物語が停滞をするようなことはなかったはずです。

 

 ――“虫好き”だから、恋すらもできないんだよね。

 というところから出発をして、

 ――いくら“虫好き”でも、恋くらいはするよね。

 というところへ到着をすることで――

 最終的には物語の受け手が納得はするからです。

 

 ――虫愛づる姫君

 の物語では――

 そのような納得がもたらされにくい展開になっています。

 

 ――“虫好き”だから、恋すらもできないんだよね。

 というところから出発をして――

 そのまま出発点にとどまっている――

 そんな感じです。