――複雑性(complexity)
とは、
――自然界の事物について、その事物を構成要素に分けて認識をし、それら構成要素の一つひとつの振る舞いから、その事物の全体の振る舞いを推し量る際に、その推量の難しさの程度に相当をする。
となるでしょうか。
ここでいう「推し量る」の主語、もしくは「推量」の主体は、
――人の知能
です。
つまり、
――推量の難しさ
というのは、
――人が推し量る難しさ
です。
一方、
――人工知能
にとっては――
それは、おそらくは、
――電算機(computer)による演算の困難性
です。
つまり、
――電算機が費やす資源や時間
です。
人工知能にとって、
――電算機による演算
とは、
――単純な手続きの組み合わせ
ですから――
――電算機が費やす資源や時間
というのは、要するに、
――単純な手続きの組み合わせの膨大さ、あるいは僅少さ
ということになります。
その組み合わせが膨大なら「複雑」であり、「僅少」なら「単純」なのですね――あくまでも、人の知能にとっては――
が――
人工知能にとっては、「複雑」でも「僅少」でもない――たんに「膨大」か「僅少」かの違いなのです。
この「膨大」か「僅少」かの違いは――
例えば数学で――
xy平面に、
y = 2^x
の指数関数のグラフを描くか、
y = 2x
の一次関数のグラフを描くかの違いです。
人工知能にとっては、どちらの関数も単純な手続きを組み合わせることでグラフを描けます。
が、人の知能にとっては、そうはいかない――
例えば、0 ≦ x ≦ 10 の定義域でグラフを描く場合に――
一次関数なら、人の知能でも、ほぼ一瞬で正確に描くことができますが――
指数関数は、そうはいきません。
2 の 10 乗が 1,024 になるという計算結果を覚えていない限り――
そのグラフを短時間で正確に描くことは困難であり――
仮に、その計算結果を覚えていたとしても、グラフを短時間で正確に描くことは、一次関数ほど容易ではないのです。
xy平面において――
点(0, 0)点(10, 0)点(10, 20)の3点の位置関係よりも――
点(0, 0)点(10, 0)点(10, 1024)の3点の位置関係を正確に捉えるほうが、はるかに困難です。
そのような意味で――
人の知能にとっては、指数関数は「複雑」であり、一次関数は「単純」であるのですね。