高いところを苦手にしている人が、つり橋の上でドキドキしているときに誰かと出会うと――
その出会った人のことが好きになってしまう――
と、きのう、のべました。
もちろん――
すべての人が、つり橋の上で誰かを好きになってしまうということはありません。
出会った人が、どんな人であったのかも、大切です。
ぜんぜん好きになれそうにもない人であったら、やっぱり好きにはなれなかった――
ということも十分に考えられます。
が――
おおざっぱにいえば、
――好きになりやすい。
ということです。
――つり橋の上でドキドキしているときに出会う人のほうが、例えば、石橋の上でポワーンとしているときに出会う人よりも好きになりやすい。
ということです。
――心理学(しんりがく)
という学問があります。
人の心の働きを調べる学問です。
――つり橋の上で誰かに出会うと好きになってしまうらしい。
ということは――
心理学に関わっている人たちには、よく知られてきました。
――つり橋・理論(りろん)
と呼ばれています。
これは――
心理学に関わっている人たちにとっても、おどろきの事実でした。
つり橋・理論が教えてくれることは、
――心が体を従(したが)えるだけではなく、体が心を従えることもある。
ということです。
心と体とは、たがいを従えあっていて――
切っても切れない関係にある――
ということです。
それにもかかわらず――
その関係に、なかなか人は気づかない――気づけない――
なぜでしょうか。
心の働きには、自分では気づけない部分が、かなり大きくあるから――
と考えられます。
その“自分では気づけない部分”で、心は体に従っているに違いないのです。
さらにいえば――
つり橋・理論が教えてくれることは――
人が誰かを好きになるかどうかは、必ずしも心の問題ではないかもしれない――
むしろ、体の問題かもしれない――
ということなのです。
これは、すぐには信じられないことです。
……
……
すでにお気づきでしょう。
ここでいう、
――好き
というのは、ふつうの意味での「好き」ではありません。
例えば、
――クラスの友達が好き――
とか、
――国語の先生が好き――
とかいった「好き」ではありません。
――恋愛(れんあい)の気持ちをもつ。
という意味です。
だからこそ――
つり橋・理論が教えてくれることは、おどろくべきことなのです。
『10 歳の頃の貴方へ――』