――治世
を保つのは難しい。
が、
――乱世
を収めるのは易しい。
少なくとも、
――治世
を保つよりは易しい。
……
……
――乱世
を収めるには――
戦乱が起きぬようにすればよい。
それには――
誰か一人――あるいは、何処(いずこ)か一方――が頭抜けた武力を握る――
方法論として易しい。
が――
――治世
を保つには――
戦乱が起きぬようにし続けねばならぬ。
これは難しい。
方法論として難しい。
ひとたび武力で頭抜けた者は――
いつまでも頭抜け続けねばならぬ。
武力の偏在を保つのが至難であることは――
それが物質やエネルギーの偏在に同じと気づけば――
よく解る
物質やエネルギーの偏在を保つには――
莫大なエネルギーを用い続け、エントロピーを低く抑え続けねばならぬ――
と自然科学――とりわけ、熱力学――は説く。
――治世
を保つとは――
莫大なエネルギーを用い続けること――
一方、
――乱世
を止めるには――
エントロピーを一時(いっとき)だけ低く抑えればよい。
いつまでも低く抑え続ける必要はない。
その“莫大なエネルギー”をほんの一時、用いればよい。
『随に――』