――治世
――乱世
の二語を並べると――
――魏(ぎ)の武帝(ぶてい)
を思い浮かべる向きもあろう。
一般には――
中国・三国時代、
――魏の曹操(そうそう)
として知られる。
紀元2世紀から3世紀を生きた。
おそらくは無名だった十代の頃――
人物批評家として名高った同時代の者から、
――治世の能臣(のうしん)、乱世の奸雄(かんゆう)
と評される。
すなわち、
――戦乱に明け暮れているわけではない世の中では有能な臣下となり、戦乱に明け暮れている世の中では奸悪(かんあく)な英雄となる。
と――
……
……
――奸悪
とは、
――心が歪んで、ひねくれている――
くらいの意である。
……
……
曹操は乱世を生きた。
結果、奸雄となった。
少なくとも――
小説『三国志演義』では、そうだ。
正史『三国志』では、趣が異なる。
諡号(しごう)で、
――魏の武帝(ぶてい)
と伝わり――
廟号(びょうごう)では、
――魏の太祖(たいそ)
と伝わる。
――非常時に偉才を放った英傑
と評される。
たしかに、そうだ。
有名な、
――赤壁(せきへき)の戦い
で一敗地に塗れなければ――
――周(しゅう)の文王(ぶんのう)
――秦(しん)の始皇帝(しこうてい)
――漢(かん)の高祖(こうそ)
と並び称され――
その名を歴史に留めたろう。
……
……
小説で悪く描かれ――
正史で称えられる――
――治世の能臣、乱世の奸雄
の評は――
的を射た。
『随に――』