歴史を知る上で、
――凡人たちと非凡の者との垣根
は決して見落としてはならぬ。
が――
それは、あくまで政治史――政治の歴史――に限ったことである。
学術の歴史や芸能の歴史、産業の歴史においては――
その“垣根”は、しばしば軽々と飛び越えられる。
非凡の者が語る卓見や――
非凡の者が魅せる妙技――
非凡の者が作る利器は、
――凡人たちの総意
の頑強さを容易に突き崩す。
学術や芸能、産業の歴史が――
一部の非凡の者たちによって――
ほんの僅かな期間に塗り替えられるようなことが――
現に起こっている。
が――
そのような非凡の者たちは――
決して、
――英傑
ではない。
政治の歴史においては――
無名で無力な一個の人に過ぎぬ。
卓見を語った研究者や妙技を見せた芸術家、利器を作った起業家が――
世論を従え、政治に変革をもたらした歴史は聞かぬ。
政治の変革は、
――凡人たちと非凡の者との垣根
を越えて、もたらされることはない。
政治の変革は、常に――
その“垣根”の片方で――凡人たちの側で――凡人たちと英傑とによって完結をされる。
『随に――』