北匈奴の方は、その世紀のうちに、モンゴル高原を去って人類史から消えた。
その後――
……
……
紀元4世紀――
ロシア平原の一部――黒海北岸――に忽然と姿を現した遊牧民たちがある。
日本語で、
――フン族
と呼ばれている。
短期間のうちに、ロシア平原やハンガリー平原などを版図に組み込むなどして、ユーラシア大草原の西部に帝国を築いた。
このフン族の出現によって――
いわゆる、
――ゲルマン民族の大移動
が起き――
この“大移動”が西ローマ帝国の瓦解を導いた――
とは、よくいわれる言説である。
――ゲルマン民族
とは、ごく簡単にいってしまえば、現在の欧米人の祖に当たる。
この時、東ヨーロッパに定住をし、農耕や牧畜を生業としていたらしい。
――西ローマ帝国
とは、紀元前1世紀に成立をみたローマ帝国が、紀元4世紀末、東西に分裂をした――それら2か国のうちの1か国である。
フン族の出現はヨーロッパに激動をもたらした。
西南へ逃げ延びたゲルマン民族が、西ローマ帝国を圧し、滅ぼした。
その起点となったフン族こそ――
北匈奴の後裔と信じられている。
直系の子孫であるかは、ともかくとして――
その生活様式や風習、遺物、使用言語などの比較から、共通の文化圏に属していたことには、
――ほとんど疑いの余地はない。
という。
少なくも子孫の系統の分派の1つではあったろう。
かつてユーラシア大草原の東部に一大帝国を築き上げた匈奴の遊牧民たちは――
いったん人類史の“舞台袖”に退いた後――
300 年ほどの歳月を経て――
今度はユーラシア大草原の西部に一大帝国を築き上げ――
再び人類史の表舞台に躍り出た。
『随に――』