道端に買い物袋が置かれていました。
初老の女性が幼い女の子を抱きかかえ、路上に、しゃがみ込んでいました。
一見したところ、切迫した様子はなかったので、そのまま通り過ぎてもよかったのですが――
買い物袋の置かれ方が微妙に無造作にみえたことと、幼い女の子が初老の女性の腕の中で若干、悶えているようにみえたこととがあいまって、
(もしや異変か……)
と思って、
「どうかされましたか?」
と声をかけました。
「いえいえ、別に――」
と自然な笑みがみえたので――
結局、そのまま通り過ぎたのですが――
*
新聞などによると――
児童の防犯ベルが道端で誤作動したが誰も声をかけなかった、ということがあったそうです。
たしかに、誤作動なら良いのですが――
本当に誤作動だといいきれるものでしょうか。
――きっと大したことはないだろう。
と、勝手に高をくくるのは厳に慎みたいものです。
もちろん――
黙って通り過ぎる人の気持ちも、わからなくはありません。
思いきって声をかけて、かえって怪訝な顔をされたら、やっぱり気まずいですからね。
今日の初老の女性の、
――いえいえ、別に――
は満面の笑みでした。
イヤな思いをしないですみました。