マル太の『道草日記』

ほぼ毎日更新――

自殺願望の少女の自殺を

 昨日の『道草日記』で、作家の石田衣良さんが挑んだミッションについて触れた。
 NHKの番組制作スタッフが用意したミッションである。

 ――自殺願望をもつ少女が自殺を思いとどまるような童話を書け。

 というものだ。

 石田さんの童話は、主人公に自殺願望をもつ少女を据え、その主人公が親しくしていた者の死を目の当たりすることで、自殺を思いとどまるという筋であった。

 悪い筋ではない。
 少なくとも僕は好きである。
 本来、自殺願望と無縁の者が読めば、実に感情移入しやすい童話となろう。

 が、自殺願望をもつ少女が読めば、そうした効果は期待できない。
 むしろ、死への誘惑を強めてしまうであろう。

 では、どうするのがよいのか。

 僕なら、主人公は、自殺願望をもつ少女の周囲にいる者にする。
 老いた男がよい――例えば、少女の祖父、あるいは歳の離れた父親、伯父――

     *

 主人公の男は不治の病を患っている。
 もうすぐ死ぬことを知っている。

 だから、自殺願望をもつ少女には、生きてほしい。
 自分の分まで、生きてほしい。
 自殺などは絶対にしてほしくない。

 が、少女の自殺願望は強かった。
 とても翻意は、できそうにない。

 そこで、男は決意する。

 ――この子の全てを受け入れよう。

 と――
 その自殺願望も含めて――

 男はいう。

 ――お前に死なれたら、私は悲しむだろう。が、死にたいのなら、死ぬがいい。それがお前の選ぶ途ならば、私は止めはしない。

 と――

 やがて、少女は自殺する。

 その報せをきいた男は、涙を流して後悔をする。
(あのとき、「せめて私が死ぬまでは生きていてくれ」と、どうして、いえなかったのか)
 と――

 男は失意のうちに病没をする。

    *

 自殺願望の少女に自殺を思いとどまらせるのは不可能に近い。
 むしろ、強いて思いとどまらせようとすることが、かえって自殺願望を強めていく。

 だから――
 このような話にするより、仕方がないのではないか。