巧いスピーチというのは、できる限り、一人称で語ろうとされたものであり――
三人称で語られる部分が少しでもあると――
――なんだかイマイチだな~。
という印象を与えてしまいます。
なぜかといえば、それは――
スピーチというものが、たいていは人前でなされるからでしょう。
スピーチの聞き手は、語り手が自分自身の口を動かして喋っているところを目の当たりにしています。
だから――
目の前で本人が喋っているのに、喋られている内容が三人称で語られていたら――
これ以上のチグハグはないわけですね。
三人称で語るのがシックリくるのは、語り手の正体が不問に付されるときです。
典型は新聞記事でしょうか。
事実を淡々と伝える書き言葉だからこそ、三人称がシックリくるのであり――
スピーチで同じことをやったら、白けてしまうのは当然です。
が――
一人称で語るのは、かなり難しいことなのですよね。
一人称のスピーチでは、語り手の正直な気持ちや考えが有り体に表れます。
だから――
もし、スピーチの内容が批判されたりすると、語り手は深刻なダメージを受けてしまう――
多くの語り手は、そのことを本能で嗅ぎ取っていますから――
一人称で語るのを躊躇します。
とはいえ――
巧いスピーチを心がけようと思ったら――
そうはいっていられません。
ダメージを受ける覚悟は必須です。
スピーチを苦手にしている人が少なくないのは――
そうした実態を反映したものでしょう。