くるとわかっている嵐なら、そんなに怖くはないのですが――
くるかどうかがわからない嵐は、けっこう怖いと思うのです。
現代は天気予報の技術が発達し――
すべての嵐の到来を予報できるようになっています。
TVをつけたり、ネットをのぞいたりすれば、いつ、どこへ、どれくらいの嵐がくるのかを、すぐに教えてくれる――
天気図という高度に抽象化された概念図で教えてくれる――
が――
ほんの100年前までは、そうではなかったはずです。
多くの人たちは、雨雲が猛烈な風に押し流されているのを仰ぎ見て、
――嵐がくる。
と察知していたはずです。
どす黒い曇天の苦悶に叫び狂うがごとき情景――不安心理によって脚色化された自然現象の一端――を目の当たりにすることによって、きたる荒天を悟っていたはずです。
天気図の汎用が、人の抱く嵐への本能的恐怖心を相応にやわらげていることは――
ほぼ間違いないといってよいでしょう。