――現在が大事だ! 未来のために現在を犠牲にするな!
という人があります。
しかも、かなり切迫した警句として口にする――
閉口させられます。
たしかに一理はあるのです。
が――
その警句が、どういう人に向かって発せられるべきかは、慎重に判断するべきでしょう。
人生の盛りに差し掛かっているような人には、まことに的を射た警句です。
自分で築き上げた生活基盤があって、その基盤を活用し、自分の裁量で、ある程度、自由に暮らせるような人が――
現在を軽視し、未来を重視するのは、こっけいなことです。
が、これから自分で生活基盤を築き上げていかなければならない思春期の人にとっては――
必ずしも妥当ではありません。
そのような人に向かって「現在が大事だ! 未来のために現在を犠牲にするな!」と警句を発することは――
さすがに「百害あって一利なし」とまではいえませんが――「一利あれども百害あり」くらいはいえるのではないでしょうか。
たしかに、現在は大事です。
今の「この瞬間」は、二度と戻っては来ませんから――
が、未来も大事です――「未来」とは、未来における「現在」です。
思春期のおいては、未来の価値を守るために、現在の価値を部分的に損なうことは、人の世の理(ことわり)です。
今の楽しみ(友人らとの交流や趣味・娯楽)を制限することによって初めて、将来に備える時間や労力(生活基盤を築く知識や理解を深めたり、技術を磨いたりする時間や労力)を見出せます。
ここでいう「将来に備える」とは――
今の楽しみを将来の楽しみにとっておくということではありません。
将来に、その楽しみを享受するかどうかの可能性を残しておくということです。
享受するまでもないと思えば、そのとき、享受しなければよいのです。
が、その可能性がない――享受したくても享受しようがない――
それは、つらいのですね。
つらい将来を避けるために、今の楽しみを制限する――
思春期においては、それは、なくてはならない観点です。
にもかかわらず――
思春期の人をつかまえて「現在が大事だ! 未来のために現在を犠牲にするな!」と警句を発する人がいるのですね。
(相手をみていえよ……)
と思います。
せめて、
――現在も大事だ。未来のために現在を犠牲にしすぎるな。
くらいに、とどめてほしいものです。