人が失敗を恐れるのは、
(人情だろう)
と思います。
人の失敗の大半は――
再起可能の損害を被る失敗です。
階段の昇降に喩えてみましょうか。
*
人が階段を昇ろうとするときに――
再起可能の損害を被ることは――
階段を降ることに相当します。
つまり――
10段の階段を昇ろうとしているときに――
1回の失敗を挟んで昇る場合は、例えば、
――6段昇って、3段降りて、7段昇る。
に相当します。
3段降りる分――
3段余計に昇ることになるので――
当然、
――10段昇りっぱなし!
よりは手間がかかります。
気持ちは萎えるでしょう。
体も疲れるでしょう。
13段を昇るよりも10段を昇るほうが、そりゃぁ楽にきまっていますから――
人が失敗を恐れる心理というのは――
このように単純に記述することができるのですね。
ハッキリいえば――
この心理は、
――怠惰
以外の何ものでもありません。
よって――
人は、この種の失敗を決して恐れるべきではありません。
が――
人の失敗の中には――
稀に、再起不能の損害を被る失敗が混じっています。
この失敗は、例えば、
――6段昇って、6段降りて、あとは未来永劫、昇ることを許されない。
に相当します。
この失敗を恐れる心理は――
人として極めて自然であるばかりでなくて――
極めて合理的です――
だって、10段の階段を昇ろうとしているときに、それを昇りきることが未来永劫できなくなることを避けているわけですから――
こういう失敗を恐れる心理を「怠惰」とは決していえません。
むしろ、しっかりと恐れるセンスが必要です。
恐れるべき失敗は、きちんと恐れるのがよいのです。