マル太の『道草日記』

ほぼ毎日更新――

感情の安全保障(5)

(感情の安全保障のほうが、感情の災害対策よりも、重要だろうな)
 と思っています。

 なぜか――

 ……

 ……

 感情の安全保障で失敗をするほうが、感情の災害対策で失敗をするよりも、ずっと尾を引きやすいからです。

 ――恋愛感情

 を例にとって――
 少し具体的に考えてみましょう。

 ……

 ……

 ある日――
 身近な異性に恋愛感情を抱いてしまった――

 勉強が手につかず、学校の成績は下がっていくばかり――
 あるいは――
 仕事が身に入らず、職場でミスをして迷惑をかけてばかり――

 そうこうしているうちに――
 留年ないし辞職に追い込まれ、学校ないし職場を去らなければならない状況となり――
 ついには、その異性との微かな接点さえも、完全に断たれてしまった――

 打ちひしがれ、

 ――あの恋は何だったのか?

 と自問する日々が数か月ほど続いた――

 ……

 ……

 こういった悲劇を防ぐには――
 感情の災害対策が有効です。

 恋愛感情は――
 人の世では、決して避けては通れません。

 人は、恋に落ちてしまうときには、わりとあっさり落ちてしまうものなのです。

 いつ恋に落ちてもよいように――
 日頃から備えをしておく――

 恋に落ちたとき、自分の日頃の言動が、どのように変わっていくのかを――
 過去の体験から紐解き、予測を立て――
 起こりうるトラブルを一つでも多く想定し、対策を立て――
 事前に十分に警戒をしておく――

 そうすることで――
 学校ないし職場での悪影響を最小限度にとどめていく――

 それが感情の災害対策です。

 一方――

 ……

 ……

 ある日――
 身近な異性に恋愛感情を抱かれてしまった――

 その異性は、手を変え、品を変え、自分に、それとなくアピールをしてくる――
 あるいは――
 むしろ自分のほうが恋愛感情を抱いているのだと、周囲に噂を流されてしまう――

 そうこうしているうちに――
 その異性に、自分も恋愛感情を抱いているかのような気分となり――
 何となく交際を始めて何となく婚姻へ至ったところ――
 互いの家庭観があまりに違うことに気づき――
 何回か、

 ――離婚しよう。

 と思ったが――
 なかなか切り出せずに、そのまま数十年が過ぎていった――

 こういった悲劇を防ぐには――
 感情の安全保障が有効です。

 真の恋愛感情というのは――
 とやかく周囲からいわれる前に、自分自身で一番よくわかっているはずの感情です。

 が――
 この“真の恋愛感情”の存在を日頃から意識していないような人は――
 いきなり異性に口説かれて、何となくの恋愛感情を抱き――
 それを根拠に、何となく求婚を受け入れようとするのですね。

 その際に――
 “真の恋愛感情”と“何となくの恋愛感情”とを厳しく峻別することが――
 感情の安全保障の第一歩です。

 感情の安全保障で大切なのは――
 自分の本音の感情を正しく把握することです。

 本音の感情を正しく把握した上であれば――
 その後の決断が、いかなる方向の決断であっても、とくに問題はありません。

 その異性に対し――
 自分は“真の恋愛感情”を抱いていない――だから、求婚は拒む――
 でもよいし――
 自分は“真の恋愛感情”は抱いていないけれども、求婚は受け入れる――
 でもよいのです。

 ……

 ……

 以上にお示しした感情の安全保障の例では――
 “何となくの恋愛感情”を“真の恋愛感情”と錯覚すること――あるいは、錯覚させられること――が、

 ――自分の感情を操作されること

 に当たります。

 このような“操作”から自由であるためには――
 常に自分の本音に正直であろうとする意識が必要不可欠です。