――戦争は、利益、恐怖、名誉のいずれかが原因で起こる。
という考え方があります。
紀元前5世紀ギリシャの歴史家トゥキュディデスの言葉と伝わります。
トゥキュディデスは、
――トゥキュディデスの罠
の概念で有名です。
従来の覇権国家に対し、台頭の振興国家が挑戦をする結果、戦争が勃発をする可能性が高まることを指しています。
ただし――
この概念は、トゥキュディデスが提唱をしたものではありません。
2015年にアメリカで開催をされたアメリカと中国とによる2国間首脳会談の席で、アメリカ側から持ち出されたことによって、広く世界中で知られる言葉となりました。
トゥキュディデス自身は、同時代のギリシャの有力な都市国家であったアテネとスパルタとの緊張状態について、
――アテネの台頭がスパルタの恐怖を呼び起こした。
と分析をしたようです。
――「中国の台頭がアメリカの恐怖を呼び起こす」といったことがないように、互いに巧くやっていこう。
というのが、アメリカ側の意思表示であったと考えられます。
中国側も、おそらく異存はなかったでしょう。
さて――
そのトゥキュディデスは、戦争が起こる原因は3つしかないと主張をしたのだそうです。
1)利益
2)恐怖
3)名誉
の3つです。
もちろん――
これら3つの原因のうち、どれか1つだけで戦争が起こることがあれば、2つ以上が複合をして起こることもあるでしょう。
先週の木曜日に始まったロシア政府の首脳部によるウクライナへの侵攻は――
おそらく、2)の恐怖と 3)の名誉との複合です。
簡単にいってしまうと――
ウクライナ政府がアメリカや西ヨーロッパの国々へ靡(なび)く様子をみて恐怖を抱いたロシア政府の首脳部が、ウクライナ政府の転覆を図って軍事力を用い始めたところ、ウクライナ政府の首脳部の名誉を重んじる気持ちに火をつけてしまった――
ということではなかったでしょうか。
象徴的なのは――
ロシア側もウクライナ側も、おそらくは、1)の利益のことは殆ど考えに入れなかったであろうと推察をされる点です。
どちらかが、1)を真剣に考えていたら――
あのような悲惨な状況にはなっていなかったでしょう。
紀元前5世紀の分析が、21世紀の国家間紛争の発生機序にも当てはまるということには、着目に値をするでしょう。
この 2000 年以上の間――
人は、そんなには進歩をしていない――
ということの強烈な示唆です。