――乱世
を収めるには――
莫大なエネルギーをほんの一時、用いて武力の偏在を造ればよく――
――治世
を保つには――
莫大なエネルギーを用い続けて武力の偏在を保たねばならぬ。
武力の偏在を造るのは易しく――
武力の偏在を保つのは難しい。
よって――
武力の偏在の造成は、誰か一人の偉業で事足りるが――
武力の偏在の保持は、名も無き多数の勤苦が要る。
その“誰か一人”が、
――奸雄(かんゆう)
であり――
その“名も無き多数”の一員が、
――能臣(のうしん)
である。
この文脈で、
――治世の能臣、乱世の奸雄
の句を捉えるのがよい。
すなわち――
一人で治世を保つのは――
一人で乱世を収めるよりも数百倍、あるいは数万倍、あるいは数億倍も難しい。
ほぼ不可能だ。
この真理を、
――治世の能臣、乱世の奸雄
の句を使い熟(こな)さんとする者は――
弁えねばならぬ。
『随に――』