小説を書く力というのは、わかりやすいですね。
例えば、ベストセラー作家が売れるのは、小説を書く力に秀でているからです。
が、小説には、読む力も大切だと思っております。
書く力だけではないんですね。
私の考える「読む力」とは、「好きになる力」と言い換えるべきかもしれません。
本来、他人の書いた小説を好きになるなど、奇跡に近いことだと思っております。
小説は、どこまでも個人的なものです。
一見、普遍的なものにもみえますが、実際は違います。
文芸の種々のジャンルに触れるほどに、小説の非普遍性ばかりが目立っていきます。
非普遍性とは、人間の特性でもあります。
この世に同じ人間は、決して存在しませんよね。そのような意味での非普遍性です。
だから――
小説を好きになる力とは、人を好きになる力に通じるはずです。
人には必ず欠点があります。
小説にも必ず欠点がある。
それを、いかに受け入れるかが、小説を好きになる力の本質でしょう。
もちろん、最後は好みです。
人には好き嫌いがある。生来の好き嫌いといってもいいでしょう。僕にもあります。
仕方のないことです。
「欠点」というからいけないのでしょうね。
「特徴」といえばいい。
小説の場合、ほとんどの欠点は美点になりえます。