ときどき、思うことがあります。
書くことが嫌いな作家というのは、存在し得るのか、と――
――書くことなんて、ないんですよ、本当に――
1、2年ほど前――
有名な文学賞受賞歴のある作家さんが、マスコミの質問に答え、おっしゃったことです。
曰く、
――作家は、人生バラ色だとか思われていますけど、実際に、なってごらんなさい。大変だから――
と――
(それをいっちゃオシマイでしょう)
と思いました。
作家になりたくて、なれない人は大勢いるのですから、少なくとも、そういう人たちにとっては、
――なってごらんなさい。
は、酷い言葉ですね。
おそらく、この作家さんは、書くことが、それほどには好きでなかったのだろうと推察します。
*
たしかに、辛いとは思いますよ。
仕事として書くということが楽でないというのは、間違いないだろうと思います。
そこを否定する作家さんは稀です。
が、書くということは、
――書くことがないよ、どうしよう。
と悩むところも含めて「書くこと」なのではないでしょうか。
――書くことなんて、ないんですよ。だから、この仕事は大変です。
というのは、書くことが好きではない証拠です。逆に、
――だから、この仕事は面白いんです。
となれば、その人は書くことが好きに違いない。
書くことに悩みながらも、とりあえず書いてさえいれば、今日明日の飯の心配はしなくていいわけですから――
やはり、作家は楽な仕事だと思いますがね。
こういうことをいうと、怒られるかもしれませんが……。
*
誤解のないようにいっておきますと――
書いたものが売れなければ、飯の心配をしなければなりません。
今日明日ではないでしょうが、半年先や1年先は気になります。
つまり、件(くだん)の作家さんが、
――書くことなんて、ないんですよ。
と、おっしゃったのは、
――自分に書けることで、売れるものなんて、ないんですよ。
という意味だったのかもしれません。
もっとも――
5年や10年は心配しなくてもよさそうな作家さんでしたけれどね。
何か事情があったのでしょうか。