マル太の『道草日記』

ほぼ毎日更新――

声をおかけしなくてよかった

 以下は、新幹線に乗って窓の外を眺めているときに、ふと思い出したことです。

 去年か一昨年のお盆かお正月の時期に――
 有名な情報番組のキャスターの男性が、番組のなかで、

 ――今夜、私も帰省します。自由席です。たぶん座席には座れないでしょう。座席の脇で立っている私に、どうか話しかけないでください。

 と、素っ気ない口調でおっしゃったことがありました。

 たしかに素っ気ない口調ではあったのですが――
 そうはいっても、何となく茶目っ気が滲んでいて、おかしみのある表情をされていました。

 きっと、話しかけてくる人たちが大勢いるのでしょうね。

 それが嬉しくないわけではないのでしょうが――
 一人ひとりに丁寧に応対するのが大変なのでしょうね。

 だったら、帰省ラッシュの時期に、あえて新幹線なんか乗らなければいいのに……とは思いますが――
 そうもいかないんでしょう(笑

 お仕事が終われば、ふつうのご家庭のパパだったりするのでしょうから――

 それから、さかのぼること数年前に――
 東京駅で新幹線を待っていたら、さる高名な作家さんが待ち合い席に座っておられたことがありました。

 僕は、その方と一度だけお話をしたことがあります。

 ですから、思わず声をおかけしそうになったのですが――
 そのお話をしたときというのは、その作家さんの講演会のときで、僕は、一般聴衆の一人として、ご講演後に、ご質問を申し上げただけです。

 ですから、僕の顔を覚えておられないことは明白です。

 声をおかけしなくてよかったと――
 今も心の底から思っています。