小学生の頃、夜汽車の絵を描いたことがあります。
図工の時間に、
――好きな物を想像して描こう。
という課題が出され――
僕は、なぜか夜汽車を描きました。
山あいの鉄橋を渡る夜汽車の絵です。
……なんて話をしたくなったのは――
いま東北新幹線に乗っていて――
座席に備えつけの雑誌の巻頭に、作家の荻原浩さんのエッセイを見つけたからです。
書き出しは、
――夜汽車に乗ろうと思った。
というもの……。
印象的ですよね。
が――
最近は豪華客車の寝台特急ばかりで、いわゆる“夜汽車”と呼ぶにふさわしい夜行列車は、ほとんど走っていないらしく――
結局、夜汽車には乗れなかったということが書かれてあります。
僕は夜汽車に乗りたいとは思いませんが――
夜汽車を見たいとは思いました。
小学生の頃に描いた光景を実際に見てみたい、と――
実際に見てみたいと思ったからこそ――
あの時、僕は夜汽車の絵を描いたに違いないのです。