マル太の『道草日記』

ほぼ毎日更新――

言論の自由を標榜するには

 大学時代に、後輩に教えてもらった名句がある。

 ――私は君の意見には反対だが、君が意見をいう権利は死んでも守る。

 18世紀フランスの哲学者・作家ヴォルテールが残した言葉とされる。
 言論の自由の根幹を素描する名句といえよう。

 ヴォルテールは、本名をフランソワ・マリー・アルエといい、過激な言論活動で知られた文人だ。
 風刺が行きすぎとされ、牢獄につながれたこともある。

 そんな文人だからこそ、上記の名句の紡ぎ手として、広く認知されたのだろう。

     *

 剣による攻撃は、常に抑制されなければならぬ。

 が、ペンによる攻撃まで抑制されてはならぬ。
 抑制されると、のちに深刻な禍根を残す。

 もし、ペンによる攻撃を受けたら、ペンで反撃するか、受け流すかのどちらか、がよい。

 剣がペンに取って代わるのは、ペンを奪うからである。
 剣による攻撃の中には、ペンを奪うことも含まれる。いわゆる言論の弾圧だ。

 とはいえ――
 ペンで攻撃され続ける人生というのは、凄惨だ。
 剣で攻撃され続ける人生と、大差ないかもしれぬ。

 だから――
 ペンによる攻撃が抑制されることは多い。
 名誉毀損の訴訟などは珍しくもないし、報道機関への圧力もしょっちゅうだ。
 そうやって、深刻な禍根が幾つも残されている。

 ――君が意見をいう権利は死んでも守る。

 とは、そのような「ペンによる攻撃が抑制されること」の否定に通じる。
 簡単にいえば、

 ――ペンでならジャンジャン攻撃してかまわない!

 と、いうことだ。
 人生を闘いに捧げた決意表明が如きである。

 おそらく――
 文人ヴォルテールが選んだ人生とは、そのようなものであった。
 普遍的に意義深い人生といえるかどうかは、判断が難しい。

 多くの人々は、彼のようには生きられぬ。
 言論の自由を標榜するには、常軌を逸した精神力が必要である。