大学時代に、後輩に教えてもらった名句がある。
――私は君の意見には反対だが、君が意見をいう権利は死んでも守る。
18世紀フランスの哲学者・作家ヴォルテールが残した言葉とされる。
言論の自由の根幹を素描する名句といえよう。
ヴォルテールは、本名をフランソワ・マリー・アルエといい、過激な言論活動で知られた文人だ。
風刺が行きすぎとされ、牢獄につながれたこともある。
そんな文人だからこそ、上記の名句の紡ぎ手として、広く認知されたのだろう。
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剣による攻撃は、常に抑制されなければならぬ。
が、ペンによる攻撃まで抑制されてはならぬ。
抑制されると、のちに深刻な禍根を残す。
もし、ペンによる攻撃を受けたら、ペンで反撃するか、受け流すかのどちらか、がよい。
剣がペンに取って代わるのは、ペンを奪うからである。
剣による攻撃の中には、ペンを奪うことも含まれる。いわゆる言論の弾圧だ。
とはいえ――
ペンで攻撃され続ける人生というのは、凄惨だ。
剣で攻撃され続ける人生と、大差ないかもしれぬ。
だから――
ペンによる攻撃が抑制されることは多い。
名誉毀損の訴訟などは珍しくもないし、報道機関への圧力もしょっちゅうだ。
そうやって、深刻な禍根が幾つも残されている。
――君が意見をいう権利は死んでも守る。
とは、そのような「ペンによる攻撃が抑制されること」の否定に通じる。
簡単にいえば、
――ペンでならジャンジャン攻撃してかまわない!
と、いうことだ。
人生を闘いに捧げた決意表明が如きである。
おそらく――
文人ヴォルテールが選んだ人生とは、そのようなものであった。
普遍的に意義深い人生といえるかどうかは、判断が難しい。
多くの人々は、彼のようには生きられぬ。
言論の自由を標榜するには、常軌を逸した精神力が必要である。