昨日、久々に本屋に入ったら――
『SF画家・加藤直之――美女・メカ・パワードスーツ』(ラピュータ、2006年)のタイトルが目に入ってきた。
加藤直之さんは、SF小説の挿絵などで有名な方である。
巨大機器類の重厚な質感が印象的だ。
何となく惹かれて手にとって――
中身をパラパラと捲(めく)っていると、
――ブリュンヒルト
の文字に気が付いた。
「ブリュンヒルト」は、13世紀ドイツの叙事詩『ニーベルンゲンの歌』に登場する女傑の名である。
この名を、作家の田中芳樹さんが、御自著に登場させている。
小説『銀河英雄伝説』は、銀河規模の宇宙戦争を描いた宇宙活劇で、主人公ラインハルトは、「ブリュンヒルト」という名の宇宙戦艦を旗艦と定め、数々の戦いで指揮を執る。
その「ブリュンヒルト」のデザインを手がけられたのが、加藤直之さんだ。
叙事詩『ニーベルンゲンの歌』のブリュンヒルトは、男勝りの美姫として描かれている。
そのイメージは、「ブリュンヒルト」のデザインの、少なくとも源流にはなったであろう。
事実――
加藤さんの「ブリュンヒルト」は、美姫の名に恥じぬ流麗なデザインである。
――美姫を戦艦に描くと、これしかあるまい。
と思わせる。
曲線が目立つシルエットは、女のしなやかな体つきを思わせて――
白銀に輝く艦体の色は、女がまとうドレスを思い起こさせる。
艦型は、全体的には、短銃の概観を成しており――
若い貴婦人が両手で握って狙いを定めるには具合がよさそうだ。
画家のイマジネーションの結実の妙に、ひとしきり感じ入る。
僕が加藤さんの絵柄を知ったのは、中学生の頃だが――
当時は好きになれなかった。
加藤さんの質実剛健よりは――
例えば、天野喜孝さんの妖艶な玲瓏さが好きだった。
三十路に入って、好みが変わった。
今は加藤さんの絵柄も好みである。
*
加藤さんの「ブリュンヒルト」のデザインが気になる方は、
ブリュンヒルト
銀河英雄伝説
で検索をかけられるとよい。
加藤さんの絵柄はヒットしにくいが、他の人の絵柄や模型の写真なら、ヒットすると思う。