マル太の『道草日記』

ほぼ毎日更新――

余計なことを口走らずに

 タクシーに乗って、窓の外を眺めていたら――
 向こう側から、女子高生が歩いてきた。

 髪が黒く、サラリと伸びて――
 手足は長く、腰回りは細身で――
 純白のブラウスに、臙脂(えんじ)のネクタイが色濃く映えていた。

 僕は、こういう女の子のネクタイ姿に目がないので――

(ほう! 美しい)
 と思って、視線を釘付けにすると――

 ちょうど、信号で停車中だったので――
 タクシーの運転手さんも、ほぼ同じタイミングで女子高生の方をみた。

(お? 同好の士か?)
 と思って、横顔を除くと――
 白髪の男性である。

 顔には無数のシワがよっていた。

(こんなジイさんでも、女の子のネクタイ姿を愛でるのか)
 と思って、何だか嬉しくなっていると――

「かわいいね、ハトが――」
 という。

「はい?」

 よくみると――
 ネクタイ姿の女の子の足下には、十数羽のハトが右往左往をしていた。

「そうですね」
 と僕は応じた。

 余計なことを口走らずに、本当によかった。