小説を書くと、他のことが頭に入らなくなる。
本来なら――
何か他のことに集中すべきときなのに、全く集中できなかったり――
何も考えずに休養すべきときなのに、全く休養できなかったり――
小説書きモードから、ただの日常モードに移行するのが難しいのである。
その逆は、極めて簡単だ。
ただの日常モードから小説書きモードへの転換は――
水が高きから低きに流れるように、実にスムーズである。
以上は、僕の性向だが――
他の人々は、どうなのだろう?
そういえば、プロの作家などが、
ただの日常モード → 小説書きモード
の切り換えの滑らかさを誇示するのは、何度もみたことがあるが――
その逆、
小説書きモード → ただの日常モード
の切り換えに言及するところは、ほとんどみたことがない。
もちろん、まったくみたことがないわけではなくて――
例えば、出産を終えたばかりの女流作家が、
――赤ん坊の泣き声で仕方なく執筆を中断している。
というような話は、何度かきいたことがあるけれども――
それは、
(そりゃ、まあ、そうだろな)
と思う。
誰だって、すぐそばで赤ん坊に泣かれたら、小説書きモードを維持するのは、かなり難しいに違いない。
「スムーズ」も「滑らか」もヘッタクレもない。
そのようなわけで――
小説書きへの耽溺から、日常の生活に戻る術を、現在、鋭意、模索中である。