マル太の『道草日記』

ほぼ毎日更新――

僕の困った嗜好

 今日の午後――
 JR上野駅から新幹線に乗ったときに――

 デッキに中学生くらいの女の子が立っていて――
 青い顔で、僕のほうに視線を投げてきた。

 どうやら、一人旅の途中のようである。

 たまらなく強い不安を感じているらしく――
 落ち着かない目で、すがるように迫ってきたので――
 思わず魅せられ、気圧されてしまった。

 これは、以前の『道草日記』にも書いた記憶があるが――

 僕は、不安に苛まれる少女の容姿仕草に、限りなく濃厚な色気を感じとってしまうという――相当に困った嗜好の持ち主で――
 だから、その娘(こ)の目線に、すっかり魅せられてしまったわけなのだが――
 そういう自分を、最近では、少しずつ疎ましく感じ始めている。

 今日だって、そうである。

 その一人旅風の女の子は、僕に続いて乗ってきた男性に向かって、
「ここは上野駅ですか?」
 と訊ねていた。

「ああ、そうだよ」
 と、その男性――きわめて明るい声で、朗らかに――
 そこに卑俗な下心などは、微塵も感じられない。

 当たり前である――冷静に考えれば、そうするのが常識ではないか。

 なのに――
 どうして、僕には、そういう対応ができなかったのであろう。

 ひどく困っていそうな女の子をみかけたら――
 親切に声をかければ済む話である。

 そこに濃厚な色気などを感じとったりしている暇は、ないはずだ。

 困ったものである。