僕が曲がりになりにも物書きを続けているのは――
人間の心の闇に重大な関心があるからだ。
人間の心に闇があることは――
ある程度の人生経験を積んだ者には、自明であろう。
が、そのことを知った後で――
対応は大きくわかれる。
闇にどっぷりと浸かるか――
闇を振り払い続けるか――
僕は、振り払い続けることができなかった。
(そんなことしても、意味ないでしょ?)
との思いを、断ち切れなかった。
断ち切れなかったのは――
闇が、あまりにも煩わしかったからだ。
無視できぬほどに煩わしかった。
だから、
(とことん見詰めてやろう)
という気持ちになった。
人間の心の闇を、隅から隅まで、知り尽くしたいと思った。
そうすることで、逆に、煩わしさから解放される。
そういうものだと納得ができるから――
でも――
僕は、たぶん少数派だ。
多数派の人々は、闇を振り払い続けることで、心の安寧を手にしている。
そこに、ときに、どうしようもない溝を感じる。
世の中の多数派の人々と自分との間の溝である。
仕方のないことであろう。
受け入れるしかない。
この溝が、僕の物書きとして動機の一つでも、あるのだから――