マル太の『道草日記』

ほぼ毎日更新――

ヒトの脳という鍵穴に巧く嵌りうる

 ――優れた芸術作品は時代をこえる。

 などといいますね。

 音楽でも小説でも絵画でも彫刻でも建築でも――
 卓越した作品は百年後や千年後の人々の心をも動かす、と――

 このことは、それら作品が、ヒトの脳の作動原理に強く影響を及ぼしやすいことを暗示しています。

 心とは、ヒトの脳の働きです。
 ヒトは、外界からの様々な情報を知覚しながら、日々の暮らしを送っております。
 それら情報が、目や耳などの感覚器官を経て脳に送られ、脳で何らかの処理が施される過程で、人の心は生じています。

 このメカニズムは、ほとんど不変といってよいでしょう。
 進化生物学的にみれば、ヒトに限らず、ほとんどの生物種は、たかだか千年程度では何の進化も退化もしていない、と考えられています。

 よって――
 時代をこえて人々の心を動かす芸術作品が存在するということは――
 ヒトの脳の作動原理に強く影響を及ぼしうる感覚刺激が、この世に、たしかに存在しているらしい、ということを示唆しています。

 そうした感覚刺激の特性は、ヒトの脳の作動原理――おそらく、脳や感覚器の最も基本的なメカニズムを統御している法則――に巧く合致しているのです。
 そのような感覚刺激を、人類は、自身の長い歴史の中で、幾つも発見してきました。

 優れた芸術作品とは、ヒトの脳という鍵穴に巧く嵌(はま)りうる鍵のようなものに違いありません。