本を手にとるとき――
なぜか、いったんは、その本に書かれていることの全てを手中に収めたような気がします。
もちろん――
その本を元に戻せば、全てが手中からこぼれおちていくのですが――
そうはいっても――
いったんは全てを手中に収めた感触は、たしかに残ります。
それは錯覚です。
錯覚に決まっています。
が――
その錯覚は、バカにならないのです。
例えば、本屋などで本を手にとって、買うか買うまいかを吟味するときに――
この錯覚が無形の判断材料になります。
つまり、
――ここに書かれていることが全て理解できたとして、さて、どうか……?
という疑問になって結実します。
この錯覚は、ネットで本を買うときには決して味わえない代物です。
が、それゆえに――
本屋で本を買うときには、間違いも多いのですよ(笑
――そこに書かれていることが全て理解できたらバラ色の世界が広がっているに違いない。
と思って買ったのに――
むしろ灰色の世界が広がっていた、とか――
灰色なら、まだましなのです。
――世界は何も変わらなかった。
というほうが、圧倒的に多いのですね(笑