どんな物でもそうでしょうが――
物というものは、それを「欲しい」と思う前に与えられたのでは――
ありがたみを実感できないものです。
例えば、
――ああ、ミカンが食べたいな。
と思う前にミカンを手にしたのでは、ありがたくも何ともない――
ミカンのような具体的な事物だけではありませんよ。
――正社員になりたいな。
と思う前に正社員になったのでは、ありがたくも何ともないわけです。
あるいは、
――恋人が欲しいな。
と思う前に恋人ができたのでは、ありがたくも何ともない――
――子供が欲しいな。
と思う前に子供ができたのでは、ありがたくも何ともない――
こうした傾向は、事物が抽象的で重大であるほどに、強まるようです。
――世界が平和になって欲しいな。
と思う前に世界が平和になったのでは、全くもって、ありがたがられない――
歴史が証明するところです。