人は、自然に触れることで、
――世の中には、自分たちの思い通りにならないことがある。
ということを知ります。
さらにいえば、
――自分たちの思い通りにならないことが、大部分である。
と――
が――
自然から遠ざかっているとき――つまり、自分たちの作った事物に囲まれて暮らしているとき――
人は、世の中の大部分は自分たちの思い通りになると錯覚しがちです。
自分たちの作った事物は、基本的には、自分たちの思い通りになるからです。
何の話か。
科学と科学技術との話です。
科学とは、実験や観察を通して自然の振る舞いを理解する学問です。
同時に――
自然の振る舞いの中には、いまだに理解できないものがあるということを、強烈に教えてくれる学問でもあります。
一方――
科学技術とは、科学で得られた知見をもとに、人に手によって確立された方法論です。
つまり、人にとっては「自分たちが作った事物」の一つです。
科学技術と科学とを混同することは――
自分たちの思い通りになる事物とそうでない事物とを混同することです。
これは大変に危険なことです。
原子力発電の科学技術と原子力エネルギーの科学とを混同することも、これに相当します。