――巧遅(こうち)拙速(せっそく)に如(し)かず。
という言葉があります。
簡単にいうと、「巧くやろうとして遅くなるよりは、拙くてもいいから速やかにやろうとするのがよい」という意味です。
一般に、古代中国の兵法書『孫子』に記載されている言葉と知られていますが――
実際の『孫子』には、これに厳密に該当する記載がないそうで――
もう少し違った主張が、『孫子』では展開されているのだそうです。
ですから、「巧遅拙速に如かず」というのは、基本的には『孫子』とは切り離して理解をするのがよいのでしょうが――
そうはいっても、やはり「拙速」といった言葉をみると――
つい戦術の基本原理に言及した警句であると理解をしたくなります。
現実の争いごとの世界では、
――先手必勝
の経験則が広く信奉されているからです。
ただ――
落ち着いて考えてみれば、あくまでも、これは「信奉」であって――
現実の争いごとの帰趨をみると、つねに先手が有利になるわけではありません。
後手が有利になることも少なくはない――
つまり、
――巧遅拙速に如かず。されど、如かずとも限らず。
というのが、たぶん真実なのだろうと思います。
ところで――
「巧遅拙速に如かず」とよく似た四字熟語に、
――巧遅拙速
というのがあります。
手元の辞書によれば、これは「巧遅拙速に如かず」の略なのだそうですが――
(ええ~? うそ~?)
と思います。
そうではなくて――
むしろ、「巧遅拙速、判じ難し」の略ではないか、と――
つまり、「巧遅」と「拙速」とは、つねに対比されるべき手段であって、どちらが有効なのかは、つねに個別の局面で固有に判断されなければならない――決して画一的に判断されてはならない――
そういう意味ではないか、と――
この解釈だと――
僕には、しっくりくるのです。
僕には、「巧遅拙速」が「巧遅拙速に如かず」と同義とは――
どうしても思えないのですね。
(略しすぎだろう)
と思います。